相場展望3月27日号 米国: インフレ退治着手も、信用不安が増し、不透明 日本: 経験則では株価上昇局面も、不安感と共存

2023年3月27日 11:38

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)3/23、NYダウ+75ドル高、32,105ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ停止が近いとの観測から、ハイテク株が買われ一時は+481ドル高まで上昇した。ただ、累積的な利上げで銀行の資金調達コストが上がり、融資姿勢が厳しくなるとの懸念が根強い。景気悪化を見越した売りも出て、NYダウはで下に転じる場面もあるなど不安定な展開だった。
  ・FRBは3/22の米連邦準備制度理事会(FRB)で9会合連続の利上げを決めた一方、2023年末の政策金利見通しを据え置いた。利下げ停止が近いとの観測が強まり、長期金利は3.3%台(前日終値3.44%)に低下する場面があった。金利低下で相対的な割高感が薄れた高PER(株価収益率)のハイテク株買いを後押しした。
  ・イエレン米財務長官は3/23午後の議会公聴会で「預金保護のために追加的な措置を講じる用意がある」と述べた。前日の公聴会で預金保険の拡大に慎重論を述べて株売りを誘った経緯があるだけに、3/23は相場に一定の支えになった。
  ・もっとも、NYダウは+481ドル高まで上げた後は、売りに押されて▲165ドル安まで下げる場面もあり、1 日を通して不安定な展開だった。市場では預金金利の上昇による利ざや縮小で銀行経営が圧迫され、貸し渋りが強まるとの警戒が強い。金融株が総じて下げ、エネルギーや資本財など景気敏感セクターの売りが優勢だった。
  ・NYダウ構成銘柄では、ソフトウェアのマイクロソフトとスマホのアップルが高い。一方、石油のシェブロンや保険のトラベラーズなどが下げた。ナスダック総合では、エヌビディアやマイクロンなど半導体株の上げが目立った。

【前回は】相場展望3月23日号 米FRBは「金利引上げ」継続で、景気後退は不可避 日本株は4月にかけて「底堅い」展開を予想

 2)3/24、NYダウ+132ドル高、32,237ドル(日経新聞より抜粋
  ・欧州株式市場で大手銀行株が下落したことを受け、米株式市場も下げて始まった。一方、3/24にセントルイス連銀のブラード総裁が、金融ストレス抑制に前向きな見方を示した。金融システム不安による景気悪化への過度な警戒が和らぎ、ディフェンシブ株を中心に買いが広がった。
  ・3/24の欧州市場では信用不安の拡大や景気悪化による収益の落込みへの懸念から、ドイツ銀行など主要銀行株が売られた。朝方の米株式市場でもリスク回避を目的とした売りが金融株を中心に出ていた。
  ・NYダウは一時▲300ドルほど下げたが、売り一巡後はディフェンシブ株を中心に買い直され、上昇に転じた。ブラード総裁は3/24の講演で、中堅銀行の経営破綻が相次ぐ中で金融システムの安定化を目的とするマクロプルーデンス政策の対応は、「迅速かつ適切だった」と強調。ロイター通信によると、金融ストレスを抑え込める確率は8割程度との見方を示した。
  ・市場では「週末を前に積極的な売買を控える投資家が多い中、ブラード氏の発言が株式相場の支えとなった」との見方があった。
  ・バイオ製薬のアムジェンや医薬・日用品のジョンソン・アンド・ジョンソン、製薬のメルクなどディフェンシブ株の上昇が目立った。一方、JPモルガンチェースやゴールドマンサックスといった金融株は下げた。ハイテク株が多いナスダック総合指数では、ソフトウェアのマイクロソフトやスマートフォンのアップルなどが上げた。

●2.米国株:インフレ退治に着手したばかりで、信用不安を併発し、不透明感が増す

 1)雇用はなおタイトな状況が続く。
  ・新規失業保険申請件数は予想外に2週連続して減少し、労働市場は依然としてタイトな状況にあることが浮き彫りになった。
  ・このことから賃金インフレの懸念が強まる傾向にあると判明した。

 2)資源国ブラジルの株価下落にみるリセッションのリスク波及
  ・ブラジル・ボベスパ株価指数 3/1   3/8   3/23  3/24 3/8比
                104,384 106,540 97,926 98,829 ▲7.2%下洛

 3)欧州市場では信用不安の拡大や景気悪化で業績低下への警戒から銀行株に売り。
  ・ドイツ銀行の株価急落、一時▲15%安、欧州銀行業界への不安が再燃。

 4)米FRBは、「インフレ抑制のため、年内の利下げを予想していない」模様だ。
  ・2月のPCEコアデフレーターは前年比で+4.7%の予想であり、FRBのインフレ目標2%には大きく上回ったままである。
  ・景気後退(リセッション)の確率も低く、米経済は強い成長が続くとして、FRBは2023年のピーク金利見通しを5.625%へと引上げた。
  ・金利見通しを巡って、市場予想とFRBの乖離は再拡大している点に注目したい。

 5)米国主要株式指数のSP500チャートは、分岐点にあり、今後の展開に注目
  ・2021年12/27高値4,791からの下洛線と、2022年10/21からの上昇線が交わるポイントに遭遇寸前にある。
  ・つまり、上昇波動を描くのか、下落に転じるのか? の分岐点に接近している。
  ・NYダウは、2022年9/30の28,725ドルを底に切り返したが、同年11/30の34,589ドルの高値を超えられない展開が約4カ月続いている。(3/24現在終値32,237ドル)

 6)米株式相場の地合の強弱をみると、安心できない展開が続きそう。
  ・銀行の信用不安が払拭できていない。
  ・米国の中堅銀行の相次ぐ経営破綻問題に加え、欧州でもクレディ・スイスが破綻しUBSに吸収買収された。スイスを代表する大手銀行クレディ・スイスが、わずか4,300億円ぽっちりで買収されたことに、闇の根の深さを思い浮かべられずには居られない。さらに、ドイツ銀行にまで飛び火している。
  ・簡単に収まりそうにない金融不安問題が長引くリスクがある。欧州でもECBが金利引上げを強化しており、連鎖してドイツ経済悪化も予想されている。銀行は、収益源である利ざや縮小や貸倒引当金の積み増しも予想される。銀行など金融機関や運用会社が抱える債券含み損に問題の焦点が移るリスクがある。とりわけ、銀行の自己防衛体制強化のため、貸し渋り・貸し剥がしとなれば、経済自体の縮小・悪化が到来するリスクが高まる。
  ・FRBの金融引締めは続く(インフレは高水準にあり、(1)金利引上げ(2)量的引締め)
   ⇒安全資産とみられる債券市場に株式市場から資金が流れ込んだ結果、長短金利は一時的に低下している。そのため、債券価格は上昇し、債券投資家の含み損は改善している。
   ⇒FRBの金融政策引締めが続くと思われ、長短金利はいずれ再上昇する予想。
   ⇒金利上昇となれば、債券市場の混乱再勃発となり、債券を大量に保有する大手銀行の債券含み損拡大懸念が増すことになる。そうなれば、債券損に対処するため、株式が益出しで売られる恐れが出てくる。
  ・米国発となった米国中堅銀行の相次ぐ経営破綻による信用不安は、欧州に飛び火し、スイス金融大手UBUによるクレディ・スイスの救済買収、そしてドイツ銀行にまで及んでいる。この信用システムの負の連鎖を止めるには「金融の正常化」しかない。しかし、この金融の正常化には「痛み」を伴う。新型コロナ対策のためとは言え、
   (1)バイデン大統領による必要を超えて大盤振る舞いした財政支援策(約2兆ドル)
   (2)パウエルFRB議長の異常なまでに膨張させた金融緩和策(約3兆ドルが過剰)
   (3)ラガルドECB総裁の判断が遅れたため急膨張となった超金融緩和策を起因とした「インフレという副作用」が今、起こっている。「常に楽観的な株式市場にも、信用不安に連鎖して時間差で襲いかかってくる」と思われるので、現金や安全資産の比重を高めた方が良さそうだ。

 7)今週の注目イベント
  ・3/28  1月S&P20都市住宅価格指数
       3月コンファレンスボード消費者信頼感指数
       米上院銀行委員会で破綻したSVBやシグネチャー銀行を巡るヒアリング
  ・3/30  週次新規失業保険件数
       10~12月GDP
       講演:ボストン連銀総裁、リッチモンド連銀総裁、イエレン財務長官
  ・3/31  2月個人所得・個人支出統計
       PCEコアデフレーター
       ミシガン大学消費者信頼感指数
       NY連銀総裁の講演

●3.銀行危機、利上げを妨げるほどではない=米アトランタ連銀総裁(ロイター)

 1)銀行セクターを巡る懸念がFRBによる今週の利上げ決定を困難なものにしたと認めたがFRBの最も重要役割は「インフレ率の低下に焦点を当て続けるべきだ」と述べた。

●4.米2月新築住宅販売件数は64万戸、予想65万戸・1月67万戸を下回る(フィスコ)

●5.米新規失業保険申請件数は19.1万件と、前週比▲0.1万件減、予想19.7万件(ロイター)

●6.アックマン氏、預金流出加速を警告、米利上げとイエレン氏発言で(ブルームバーグより抜粋

 1)アックマン氏は、ヘッジファンド運営会社パーシング・スクエアの創業者。

 2)イエレン米財務長官の全面的な預金保証を巡り「後ろ向きな」発言と、米利上げを受け銀行からの預金流出が加速すると予測した。
 
 3)資金流出を止めるためには預金保証が必要であり、この不透明な状況が長引けば、規模が小さい銀行のダメージが長期化し顧客を呼び戻すことが難しくなると警告した。

●7.スイスの中央銀行は+0.50%の大幅利上げ、インフレ抑制を優先(NHKより抜粋

 1)大手金融クレディ・スイスの経営問題を受けて金融市場に依然として不安感がくすぶる中インフレ抑制を優先する姿勢を示した。

●8.クレディ・スイスで大やけど、中東勢は銀行投資に慎重強める(ブルームバーグ)

 1)サウジ・ナショナル・バンクはクレディ・スイス株で▲10億ドル(約▲1,310億円)を失った。

●9.フォード、EV事業で2023年▲30億ドルの赤字に拡大と予想、多額の投資で(ブルームバーグ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)3/23、上海総合+20高、3,286(亜州リサーチより抜粋
  ・中国景気の持ち直しが期待される流れとなった。
  ・中国人民銀行(中央銀行)の緩和スタンスが強化された。
  ・当局の産業支援に対する期待感が引続き相場の支えとなっている。政策で恩恵を受けやすい銘柄群が物色された。外部動向の不透明感で売り先行したものの、下値は堅く、指数は終盤に入り上昇の勢いを増している。
  ・業種別では、ハイテクの上げが目立ち、金融もしっかり、通信ネットワークも上昇。半面、医薬品は冴えなく、不動産・公益・空運が売られた。

 2)3/24、上海総合▲21安、3,265(亜州リサーチより抜粋
  ・国内発の新規材料が乏しい中で、売り圧力が意識される流れとなった。
  ・上海総合指数は前日まで3日続伸し、足もとで約3週間ぶりの高値水準を回復していたこともあり、様子見ムードも漂う。しかし、大きく売り込む動きはみられない。
  ・来週3/27に2月中国工業企業利益、3/31に3月中国製造業PMIが公表されるほか主要企業の決算報告が進んでいる。
  ・業種別では、エネルギー関連の下げが目立ち、通信ネットワークも安い、金融も冴えない。半面、ITハイテクは総じてしっかり、不動産・酒造・食品の一角が買われた。

●2.中国のリチウム価格、想定超えるペースで急落、EV向け需要鈍化で(ロイターより抜粋

 1)中国のリチウム価格はこの4週間だけで▲34%も急落、昨年11月比で半値以下となる。

 2) 中国政府は今年からEV分野への補助金を削減、ガソリンエンジン車の値下げもあり、厳しい競争に直面している。このため、リチウムの需要はさらに打撃を受けるとみられる。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)3/23、日経平均▲47円安、27,419円(日経新聞より抜粋
  ・金融システム不安がくすぶり前日の米株式相場が大幅安となった流れを引き継ぎ、午前には下げ幅が▲300円に迫る場面もあった。長期金利の低下などを受けて値嵩の半導体関連株の一角が買われ、相場を下支えした。
  ・幅広い銘柄に売りが先行した。3/22にイエレン米財務長官が保護対象を全預金に拡大することや保護金額の上限を引上げることに否定的な考えを示し、同日の米株式市場では金融株を中心に大幅下落。この流れを引き継ぎ、東京市場でも金融株には売りが目立った。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)が3/22まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では政策金利の+0.25%引上げを決めた。米景気の先行き懸念も株式相場の重荷となった。
  ・もっとも、今回のFOMCやパウエルFRB議長の会見での発言については、受け止め方が定まっていないとの指摘もある。3/23の米株式市場がどう動くかを見極めたいと積極的に持高を一方向に傾けにくい地合となった。
  ・日本時間3/23の取引でNYダウ先物が強含んだ。香港や台湾の株式市場が上昇していることもあり、日経平均は次第に下げ幅を縮めた。市場では「東証株価指数(TOPIX)がチャート上の200日移動平均が1937手前で下げ渋り、上昇トレンドが続くと判断した投資家が押し目買いを入れた側面もありそうだ」との声も聞かれた。
  ・三菱UFJ・第一生命など金融株の下げが目立ち、楽天・武田薬も売られた。一方、リクルートが買われ、アドテストは22年ぶりの高値を更新した。小田急も上昇。

 2)3/24、日経平均▲34円安、27,385円(日経新聞より抜粋
  ・為替市場での円高・ドル安傾向を受けた、海外短期筋などの散発的な売りが重荷になり、午前に下げ幅は一時▲160円を超えたが、その後は見直し買いや配当取りの買いが入り、次第に下げ幅を縮めた。
  ・3/24の為替市場で円相場が130円近辺まで上昇するなど円高が進行し、採算改善期待の後退から輸出関連株の一角が売りに押された。自動車株や鉄鋼株などの値動きが冴えなかったほか、欧米の信用不安を背景とした金融関連株の下落も目立った。
  ・売り一巡後は下げ渋った。前日の米株式市場でハイテク株が上昇した流れを引き継ぎ、値嵩の半導体関連株の一角に買いが指数を下支えした。週末を控えた売り方の買戻しも入った。
  ・期末を控えた配当取り狙いの買いもみられ、市場では「個人投資家だけでなく、債券の投資環境が厳しい中で地方金融機関も高配当利回り銘柄の物色を活発化している」との見方があった。
  ・りそな・T&D・三井不・大成建設が売られた。半面、東エレク・スクリン・郵船・川崎汽船が高い。

●2.日本株:日経平均は上昇を示唆するが、上昇波動に乗れるか不透明要因あり

 1)外国人による先物動向は、3/20から買越しに転換し、4日連続の買越し。
            3/20   3/22   3/23   3/24
  外国人先物買い推移 +38枚 +10,906 +2,282  +774
  日経平均の上下幅 ▲388円  +520   ▲47   ▲34
   ・外国人は先物買いに転換したが、日経平均は3/20~24でわずか+51円高。外国人の買いは3/22以外では、買い枚数が薄く、積極的な買い優勢となっていない。

 2)配当権利狙いの買いが目立ち始めた。

 3)新高値銘柄数は増加に転じ、日経平均は上昇に向かって「盛り上がり」姿勢を示す。
           3/16  3/22  3/23  3/24
   新高値銘柄数   6   22   20   30
   新安値銘柄数   89    7   23   12

 4)経験則では、3月下旬~4月は「株価上昇」の季節
  ・配当金狙いの買い。
  ・外国人による年金基金を原資とした買い。
  ・持高のポジション調整による買い

 5)過去の経験則が有効かどうか?  慎重なスタンスが強くなる可能性がある。
  ・銀行の信用不安増大と、金利上昇による債券含み損を背景とした不透明感から、日本株の買い意欲の減退があり得る。
  ・日本株の株価の位置は、米国株に比べて「やや割高」感がある。
  ・中国経済に依存度の高い日本企業の業績に対する警戒感がある。
  ・中東諸国のオイルマネーが株式市場から流出する恐れがある。サウジの財政均衡する原油価格は80ドルといわれるが、3/24現在69.2ドル。この水準では財政赤字となり、不足分は運用株式の売却が予想される。
  ・岸田政権は「ばら撒き政策」で借金の膨張が目立ち、「成長戦略」は乏しい。

●3.EU、エンジン車容認へ=合成燃料に限定、独と合意 (時事通信より抜粋

 1)EUは当初、温室効果ガス削減策の一環として、全てのエンジン車を禁止する方針だったが、自動車大国ドイツが反対していた。二酸化炭素(CO2)と水素で製造する合成燃料を使用する場合に限って容認することで合意した。

 2)ウィッシング独交通相も「CO2排出量が実質ゼロになる燃料だけを使う場合、2035年からもエンジン車が許可される」と説明した。

●4.企業動向

 1)ルネサス  オーストリアの半導体設計会社パントラニクスを買収発表(時事通信)
 2)コスモエネ 総還元性向の目標を60%以上に(ロイター)
 3)ANA    羽田=北京・上海便を4/1から3年ぶりに再開(Aviation Wire)
 4)東芝    「非上場化」へ、投資ファンドの提案受け入れを正式発表(NHK)
         非上場化は、アクティビストと呼ばれる海外の株主を事実上排除することが目的で、東芝の経営問題は新たな段階を迎える。

●5.企業業績

 1)富士通ゼネラル 今期純利益は前期比2.6倍の95億円と、従来予想3.5倍の130億円から▲35億円減る見通し。市場予想117億円からも下回った(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします) 

 ・6594 日本電産   業績堅調。
 ・7047 ポート    業績好調。
 ・7270 SUBARU   業績好調。

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