歩行や家事の軽い活動、時間が多い高齢者ほど認知機能が高いと判明
2023年3月9日 16:20
公益財団法人 明治安田厚生事業団が、高齢者の24時間の行動と認知機能の関連性を検討。1日のうちで歩行や家事など、低強度の活動時間が多い高齢者ほど認知機能の課題成績が良好であることが判明した。高齢者にとっては運動やスポーツよりも取り組みやすく、認知機能の衰えを防ぐうえで効果的ということだ。
公益財団法人 明治安田厚生事業団が、高齢者の24時間の行動の内訳と、認知機能の関連性についての研究結果を公開した。目的のための行動をコントロールする脳の機能を「実行機能」といい、例えば夕食を作るなら何を食べるか、どんな材料が必要でどう調理するか、という計画的な判断と実行が必要になるが、この実行機能は加齢に伴って低下しやすい。
既にこれまでの研究で、運動や家事等の体を動かす活動をすることで実行機能の、ひいては認知機能の維持・改善に効果的であることはわかっていた。そこで今回の研究では、24時間と有限な1日の時間の中で、どんな活動を減らしどんな活動を増やせばよいのか、という点を調査した。対象は健常な高齢者76名で、参加者は実行機能を評価するため、パソコンを使用した3種類の課題を行い、その結果を調査するという方法をとっている。
結果として、1日のうちで、家事やゆっくりした歩行といった低強度の活動時間が長ければ長いほど、抑制機能を評価する課題の成績が良好だった。抑制機能とは、例えば歩行中に赤信号になったことに気づいてすぐ止まる、といった判断に必要な能力である。
その一方で、運動やスポーツなど高強度の活動をしても、実行機能との間に目立った関連性は見られなかった。会話や暗算をする際に必要なワーキングメモリ能力や、自動車の運転中に交通状況に応じた適切な判断を下すために必要な認知的柔軟性の成績は、低強度でも高強度でも明らかな関連性は見つけられなかった。
調査結果を整理すると、高齢者が抑制機能を維持・向上していくためには、1日の行動のうち睡眠やテレビ視聴等の座ったり横になっている行動を減らし、家事やゆっくりした歩行等の活動時間を増やすことが認知機能の維持・向上に効果的であるということだ。
1日という限られた時間で言うならば、横になったり座っている時間を30分減らし、家事や歩行をすることが望ましい。これは統計学的な予測であるため個人差があり、必ずしも全ての人に当てはまるわけではないが、抑制機能の成績が5~10%程度向上すると予測される。運動やスポーツといった心理的・身体的な負担の大きな活動よりも、家事や歩行は負担が少なく実践しやすいというメリットも挙げられる。
高齢化社会が進行する現在、心身ともに健康に日々を過ごすことが大切なのは言うまでもない。日常生活の無理のない範囲で体を動かしつつ、認知機能の衰えも予防していきたい。(編集担当:久保田雄城)