日銀の植田新総裁が行う政策の第1弾は、「年内に最低限の金利引き上げ」か?

2023年3月7日 11:28

 国会では日本銀行の次期総裁に指名された植田和男氏への、所信聴取と質疑応答が行われた。

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 担うべき役割の重みを考えると、植田氏が率直に自らの考えを披瀝するというよりは、そつ無く足を引っぱられないように答弁するのは当然のことだ。そのため国会でのやり取りを聞いて、就任後の政策をイメージすることはできない。実際、ウオッチャーの意見も、政策転換が行われる時期を就任早々と予想するものや、2~3カ月後の時期、半年~1年後など呆れるほどにバラバラだ。

 政策転換の時期については分かれる見解だが、方向性が「利上げ」であることは共通している。次の1手に手詰まり感があった頃、「マイナス金利を深掘りする余地はある」という強がっていたが、緩和政策が下限に張り付いていたことは衆目の一致するところだった。

 つまり、日銀の新体制に考えられる政策は「利上げ」しか残されていない。緩和に慣れ切った事業者への影響を考慮して、引き上げ幅を極力抑え込むくらいが関の山だろう。

 去る2月1日、日本の中央銀行(日本銀行)にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利上げを決定して政策金利は4.50~4.75%へと引き上げた。

 FOMCは、20年3月にそれまでの1.75%から0.25%へ大幅な引き下げを行って以後据え置いていたが、2年後の22年3月に0.5%へ引き上げられて以降、FOMCが開催される都度引き上げられてきた。殊に22年6月を起点とした連続4会合では各0.75%という大幅な引き上げが行われた。

 その後、22年12月に0.25%の引き上げとなり上昇スピードは鈍化したが、今回の決定も前回と同じ引き上げ幅となり、上限を意識した慎重な姿勢に転じたようだ。

 ただFOMCの声明文には、「インフレが多少和らいだ」との認識を示しながらも、「いまだに高水準にある」との警戒感も滲ませている。更に、今後も「継続して誘導目標の引き上げが適切」との見込みを示して、3月に開催される次回FOMCでの追加引き上げの見解を率直に示している。

 パウエル議長の記者会見でも、1度に留まらない利上げの可能性が示唆されたことから、現状では5月のFOMCでも利上げが行われる見通しだ。もし、3月と5月にそれぞれ0.25%の利上げが実施されると、 FOMCが22年の12月に示した23年末予想政策金利の中央値5.0~5.25%に並ぶことになる。だから、マーケットに的を絞らせたくないパウエル議長は「3月のデータ次第で更に目標を引き上げる」と釘を刺すことも忘れなかった。

 「戦力の逐次投入はしない」と大見えを切って発射された黒田バズーカは、その時点で持ち玉を打ち尽くした。その後の状況の変化に柔軟に対応する術を失った挙句、マイナス金利の導入で中小金融機関を疲弊させたとの評もある。

 アメリカと日本に隔絶した国柄の違いが存在するように、それぞれの中央銀行にも基本スタンスの大きな違いが存在することを、再確認させられたような気がする。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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