酒粕が鶏の飼料に? 「輸入に頼らない」脱炭素社会への取り組みが神戸で

2023年2月26日 17:17

 世の中がどんどん便利になる一方で、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスによる地球温暖化も進んでいる。地球温暖化は異常気象や自然災害の引き金となる可能性があるため、温室効果ガスの排出量を減らし、一刻も早く食い止めなければいけない。しかし、現代社会の経済活動や日常生活を維持するためには、温室効果ガスを全く排出しないのは、現時点では不可能だ。そこで、世界規模で脱炭素社会への取り組みが加速している。

 日本政府も脱炭素社会への取り組みを後押しするため、蓄電池や水素、洋上風力などの重点分野における研究開発や設備投資を促進して、工場や事業所のエネルギー利用効率の向上を目的とする「先進的省エネルギー投資促進支援事業費補助金」(経産省)や、電力部門の脱炭素化を目的とした「需要家主導による太陽光発電導入加速化補助金」(経産省)、工場や事業場などの設備更新や運用改善などによる脱炭素化を支援する「工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業」(環境省)など、様々な施策を打ち出している。

 国だけでなく、地方自治体も積極的に動き始めている。

 例えば、兵庫県神戸市では、様々な脱炭素の取り組みを積極的に支援する「KOBEゼロカーボン支援補助金制度」を2022年にスタートさせている。これは、地元神戸の自然や地域の生活環境を活かしつつ、自由な発想による先進的で創造性に富んだ、地域貢献につながる取り組みを支援するもので、第一次募集では15件の応募があり、9件の事業が採択されている。その中でもとくに興味深いのは、神戸大学と白鶴酒造による「CO2排出量を削減する国産飼料原料開発事業」だ。

 同事業は、神戸大学の本田和久教授らと白鶴酒造が「家禽用飼料としての酒粕利用法の開発」について共同で研究を進めているものだ。具体的な内容としては、現在、国産の鶏の飼料は輸入に依存しているため、主な原料であるトウモロコシと大豆粕を飼料用米と酒粕に置き換えようとする試みとなる。これが成功すれば、稲作を基盤とした国産飼料の開発、高付加価値の鶏肉や卵の生産、食料自給率の向上が望める。

 また、輸入に頼る飼料を国産化することで、フードマイレージ(輸送される食料の重量に輸送距離を乗じた値:CO2排出量の指標の一つ)を低減することが期待できる。トウモロコシに関しては、飼料用米に代替可能であることがすでにわかっているが、問題は大豆粕の置き換えだ。これまでにも、焼酎粕やしょうゆ粕といったさまざまな原料の飼料開発が進められてきたが、「繊維が多い」、「たんぱく質が少ない」「ミネラル分が多い」など、不十分な点があり、大豆粕に代わる原料は見出されなかった。酒粕も同様で、タンパク質含量は乾燥重量あたり40~50%で大豆粕と同等の高い栄養価があるものの、そのままでは水分量が多くて鶏の飼料には適さない。

 ところが今回、「酒」を知り尽くした白鶴酒造が国産酒粕飼料開発に乗り出したことで、大きな期待が持てそうだ。同社ではこれまでにも、酒造技術で培ったノウハウを生かし、酒粕から抽出された成分を原材料とした化粧品の開発や販売なども行っており、酒粕の扱いにも熟知している。そんな同社が同事業で取り組むのは、酒粕の効率的な乾燥破砕の方法の確立だ。同社が乾燥粉砕した酒粕の、鶏肉・鶏卵生産用の飼料としての価値は神戸大学が評価する。これが成功すれば、国産の鶏の飼料を地産地消で賄える可能性が高まるとともに、形状が食用に適さない酒粕の高付加価値化にもつながる。

 この取り組みは、単に日本の養鶏が抱える飼料に関する課題の解決だけではなく、多くのものを輸入に頼る日本のあらゆる産業でも共有されるべき、良い事例となるのではないだろうか。これまで価値が無いと思われていたものを活用することによって、輸入に頼ってきたものを地産地消出来るようになれば、輸送時に排出されるCO2を大幅に削減できる。特に食品については、無駄も省ける上、安心で安全。さらに美味しくなるとなれば、良いこと尽くめだ。地域のものを活用すれば、地域のブランドにもなり、産業の活性化にもつながる。白鶴酒造と神戸大学のような取り組みが増えてくれば、脱炭素社会への取り組みも、「やらなければならない」という意識から、「やりたい」「やるべき」という、今よりももっと豊かでポジティブなものになるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)

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