ベッドフォード 2023年秋冬コレクション - 追憶のエクリチュール

2023年2月12日 15:52

 ベッドフォード(BED j.w. FORD)の2023年秋冬コレクションが、2023年2月8日(水)、東京・代官山のリストランテ ASOにて発表された。

■追憶の身振りをうつしだす

 「twinkle twinkle little star」と題された今季のベッドフォードは、ある種のノスタルジーを帯びているように感じられる。そこには、何か遠いものへの郷愁、それを手繰り寄せるおりに描かれる追憶の軌跡が、衣服の肌理として、あるいは震えとして反映されているのではなかろうか。

 ベッドフォードならではの流麗なテーラリングを活かしたジャケットは、畝のやや太いコーデュロイ素材を用い、シャープな雰囲気を抑えて温かくノスタルジックなムードに。丈感は長く、ラペルの開きは深く設定し、重心を下げることで、洗練されたシルエットながらも抜け感をもたらす。フレアシルエットのブーツカットパンツもまた、ジャケットの雰囲気に呼応する。

 こうしたノスタルジックな雰囲気は、コレクションを構成するそのほかのウェアにも底流している。存在感あるボアコートには、フロントにベルトをデザイン。ダウンベストはアノラック風のプルオーバー仕様で、フロントファスナーを斜めに配して。総柄のトップスやパンツには、草花を図案化した室内装飾のような表情に。あるいはマキシ丈のステンカラーコートには、穏やかに陰影を織りなす素材を採用している。

 ところで、冒頭に「追憶の軌跡」と記した。白い紙の上に線を描くとき、その筆跡は流麗に脳裏のイメージを具現化し、あるいは震え、あるいは途切れて断絶を示す。線を引く手の動きに、思考の過程が抗いようもなく反映されるのだ。脳裏における働きがドローイングに具現化されるという意味で、線とは思考の、追憶の身振りにほかならない。

 今季のベッドフォードには、いわばこの追憶の身振りを見てとれる。チェスターコートは、大きく設定したラペルの形状を流れるように流麗な曲線で描きとる。シャツには曲線的なスリットを設け、レイヤリングを引き立てる。2023年春夏では、たとえばジャケットに林檎をモチーフとしたカットアウトを施していたが、翻って今季では、同じくカットの身振りを示しつつも、それをまとう身体の動きに呼応した衣服の震えをこそ引き立てている。

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