世界のポリグロットから学ぶ、外国語学習の原則と実践

2023年2月4日 16:27

 語学学習に挑戦する人は多いが、成功する人は少ない。途中で挫折してしまう人は全体の99%、いやそれ以上かもしれない。継続できない、効果が得られない最大の原因は自分に合った学習方法が見つからないからだ。

【こちらも】「外国語漬け学習法」の具体的な進め方 外国語力を短期間で伸ばす

 どんな方法があり、どれが正しいか分からないのであれば、ポリグロットに学ぶことが近道かもしれない。今回は、世界中のポリグロットたちが挑戦と成功を繰り返しながら、悟った語学学習の実践と原則について紹介したい。

 TEDはあらゆる分野のエキスパートや著名人たちのスピーチを動画配信している。TEDのプレゼンを語学学習教材に活用している人も多いだろう。今回はTEDのスピーチから関連の動画を3つ紹介する。

■スピーチI「5 techniques to speak any language」

 プレゼンターのSid Efromovichさんは、7カ国語を話すポリグロットだ。18歳の時すでに4カ国語を話し、その後3年で新たに3カ国語をマスターしたという。本スピーチでは、3年で3カ国語を習得した時の経験を元に、外国語習得で最も大切な5つの実践を紹介している

●1. 間違えること

 語学習得とは、自分が使ってきた言葉のデータベースには無い発音や文法を新に学ぶこと。繰り返し間違いを犯しこれを正すのが新しい発音や文法を習得に欠かせないプロセス。

●2. 母国語の発音表記に引きずられない

 母国語の発音表記に引きずられること無く、習得言語の正しい発音表記のルールを学び、ネイティブと同じ発音を再現できる方法を習得する。

●3.間違いを正してくれる先生を探す

 身近にネイティブスピーカーがいない場合は、SkypeやCraigslistなどを活用してもよい。

●4.シャワー会話で繰り返し会話学習を繰り返す

 シャワー会話とは、独り言外国語学習と同じで、場所や時間を選ばず一人で気軽に進められる勉強方法だ。下記の記事で詳細を紹介している。

外国語のスピーキング力、「独り言学習法」で着実に伸ばす!

●5.適切な相手と会話学習を練習する

 この場合、双方にとって一番得意な共通言語であることが望ましい。

■スピーチII「どんな外国語でも半年でマスターしてしまう方法」

 プレゼンターのChris Lonsdaleさんは、心理学で蓄積された研究成果を語学学習プロセスに応用し、どんな言語でも半年で流暢に使えるようになる5つの原則と7つの実践を紹介している。

・5つの原則

●1.語学学習では自分に関わる部分に集中する

 人は自分の生命に関わる重要な情報に特に注意を払い、記憶に残す。このような人間の特性を生かして、自分との関連性の中で効率よく記憶していく。

●2.初期段階からコミュニケーションのツールとしてどんどん使う

 語学は習得してそこに大切に保管しておくと忘れてしまう。どんどん使って繰り返し記憶を補強する必要がある。

●3. 理解可能なレベルの言葉を大量に聴く

 スティーブン・クラッシェン氏が提唱する、理解可能なレベルの言葉を大量に聴く。言語の習得は筋トレ同様トレーニングが必要。

●4. 発音発声練習を繰り返す

 顔が筋肉痛になるくらい発音発声練習を繰り返す。

●5. 楽しくリラックスして学習する

 脳からアルファ波が出て好奇心を感じる状態で学ぶと、迅速な習得につながる。特に、不完全への寛容が必要。

・7つの実践
(1)脳をその言語で浸すようにたくさん聴く

(2)言葉より先に意味を覚える。

(3)単語の組み合わせで創造的に文章を作る。名詞、動詞、形容詞をそれぞれ10覚えれば、1000の文章が作れる。

(4)最も頻繁に使う単語を集中的に覚える。英語は1000個の単語で日常会話の85%が、3000語で98%がカバーされる。

(5)外国語の親となる人をみつける。不十分な言葉を理解するように努め、間違いを無理に訂正せず、適切な受け答えや言い方を、理解できる単語で教えてくれる。まるで親のように学習者を育ててくれる人が理想。

(6)ネイティブの顔の動かし方を真似て、筋肉を正しく動かす練習をする。

(7)直結方法で効率よく語彙力を増やす。通常私たちは母国語の単語と外国語の単語を対応づけて覚えるが、直結とは新しい外国語の音を元からある自分の内部イメージに関連づける作業だ。何度も繰り返すうちに作業が上達し、無意識にできるようになるという。

■スピーチIII「The secrets of learning a new language」

 プレゼンターのLydia Machivaさんは、外国語学習が大好きだという。そんな彼女は2年に1言語のペースで新しい外国語を学んでいて、今は8つ目の言語学習に挑戦している。

 Lydia Machivaさんが多くのポリグロットの仲間たちと情報を共有して知りえた、多言語習得で最も重要なことは、「言語学習のプロセスを楽しむ」こと。Skypeを活用する人、人気小説を外国語で読む人、好きなドラマを外国語で見る人、いつも常用単語500の暗記から始める人などなど。人によって方法は千差万別だ。だがポリグロットたちはみな、学ぶ過程そのものを楽しんでいるという。

 これに加えて外国語習得において大切だと語る3つの原則は、「間隔反復」、「計画・継続・習慣づけ」、「忍耐・辛抱」という。

 ポリグロットたちの言葉に説得力があるのは、彼らが理屈ではなく自分で体得したエビデンスに基づく事実を語っているからであろう。


 3人とも共通して外国語習得に無くてはならないと言い切るのが、「リラックスした環境で楽しみながら学ぶこと」の大切さだ。緊張やストレス下では聴力、理解力、記憶力など重要な学習機能がのきなみ後退してしまうからだ。

 その他のルールや実践法についても、表現が違うだけで実は同じことを指している内容が多い。次回は、彼らが体得した原則と実践について、学習者のレベル別に具体的な学習方法を解説したい。(記事:薄井由・記事一覧を見る

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