【映画で学ぶ英語】続・『カサブランカ』の映画史に残る名言
2022年11月16日 11:36
前回から引き続き、今回も映画『カサブランカ』(1942年)の名言、「君の瞳に乾杯(Here’s looking at you, kid. )」の英語の意味を考えてみたい。
【前回は】【映画で学ぶ英語】『カサブランカ』の映画史に残る名言
■「Here’s + 現在分詞」の意味
このセリフの含蓄の豊かさを知るには、まず「here’s + 動詞 + ing」という構文の意味を理解する必要がある。
この構文は次に紹介するイディオム「here’s hoping」のように、話者の行為を強調する意味があるのだ。
たとえば、英国ITVの公開オーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント(Britain’s Got Talent)」の一場面。候補者のスーザン・ボイルに、審査員は「どうして今まで歌手デビューできなかったのか」と尋ねる。
この問いに対して彼女は次のように答えた。
I haven’t been given the chance before, but here’s hoping it will change.
「今までチャンスをもらえなかったが、今回は違う結果になることを期待している」というわけだ。
このように「here’s hoping」は、何かが起きることを期待していることを強調するのに使うイディオムとして覚えておきたい。
このことを念頭に置いて、映画『カサブランカ』の名言に戻ろう。
「Here’s looking at you, kid.」という英語は、「乾杯」という意味だけではない。リックがイルザを愛情をもって見つめている、ということを強調していることが理解できるだろう。
だが、「Here’s looking at you」にはさらに隠された意味が存在する、という説がある。
■もともとはポーカーの隠語だった?
このセリフの誕生秘話について、米国の映画ジャーナリスト・アルジーン・ハーメッツが1992年に上梓した著書が詳しい。
実は「Here’s looking at you, kid.」という名言は、撮影時に使われた印刷台本には書かれていない。撮影終了後、映像編集者用の脚本に鉛筆で書き込まれているのみ。つまり、撮影現場で考えられたに違いない、と言うのだ。
このことと関連してハーメッツは、製作筋の話として、次のような逸話を紹介している。
イルザ役のイングリッド・バーグマンは、撮影の合間に美容師と英語の先生からポーカーの手ほどきを受け、ヘアピンをチップ代わりに楽しんでいた。
バーグマンはスウェーデン出身のため、英語のスラングをあまり知らない。そこで彼らのゲームを見ていたハンフリー・ボガートが、彼女に「Here’s looking at you.」という言葉を教えた、と言うのだ。
ポーカーの隠語で「Here’s looking at you.」は、ジャック、クイーン、キングの描かれた札が揃っていることを指す。「絵札が君を見つめている」という意味である。
■場面によってニュアンスが違う名言
こういったことを踏まえて考えると、「Here’s looking at you, kid. 」というセリフは、場面ごとにニュアンスが違う可能性が出てくる。
前回紹介したように、このセリフは映画の中で4回使われている。最初の2回は乾杯のセリフだ。
しかし終盤のセリフには、乾杯を超えるさまざまな思いが込められているように感じられる。
特にラストでリックは、イルザが夫とともに逃げるべき理由を数えあげて、「Here’s looking at you, kid. 」と言う。
ポーカーのゲームで相手に絵札が揃っていれば勝ち目は薄いが、ゲームオーバーではない。まだ逆転の希望もある。
同じようにこのセリフには、リックのイルザに対する理屈では割り切れない思いも込められているような気がするのである。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る)