必要な時だけがん免疫のスイッチをオンに 京大らの研究

2022年6月24日 15:52

 がん免疫療法とは、患者自身の免疫のブレーキをオフにする薬によって、免疫細胞によるがん細胞への攻撃を強める治療法だ。この治療法は効果的だが、免疫が過剰に働きすぎて自己免疫疾患を発症してしまうこともある。京都大学などの研究グループは20日、このブレーキをオフにする時間をコントロールする方法を発見したと発表。この方法により、効果的にがん細胞を攻撃しつつ、副作用を減らした治療が可能になることが期待される。

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 今回の研究は、京都大学大学院の成瀬智恵准教授、浅野雅秀教授、筑波大学の杉山文博教授、岐阜大学医学部附属病院の宮崎龍彦教授らのグループにより行なわれ、その成果は、17日付けで国際学術誌「NAR Cancer」にオンライン掲載された。

 免疫は体に害を及ぼす細菌やウイルス、そして体内で発生したがん細胞などを攻撃し、取り除く働きをしている。このように通常は体を助けるはずの免疫だが、その働きが暴走してしまうと、自分自身の正常な細胞を攻撃してしまう自己免疫疾患を引き起こす。関節リウマチや潰瘍性大腸炎など、自己免疫が原因となっている疾患は多く知られている。

 この暴走を防ぐためのブレーキとして働いているのが、免疫細胞に発現しているPD-1である。このPD-1に受容体が結合すると、免疫の働きにブレーキがかかる。これを免疫チェックポイントという。

 がん細胞にはPD-1受容体を持つものがあり、免疫の働きにブレーキをかけて自分達がん細胞への攻撃を避ける。このブレーキを効かなくすれば、免疫はしっかりとがん細胞を攻撃できるはずだ。

 今回研究グループは、特定のタンパク質を必要な時だけ除去する SMASh デグロンシステムを用いた。遺伝子組み換えによりマウスの免疫細胞にタンパク質を分解するタグを入れたノックインマウスを作成。このノックインマウスにC型肝炎治療薬を与えるとPD-1はタグと一緒に分解され、がん細胞のPD-1受容体がやって来ても免疫ブレーキがオフにならなくなる。大腸がんを移植したマウスにおいて、ノックインマウスのがん細胞は野生型のマウスと比べてがんの増殖が抑えられたという。

 だがこの研究では、マウスが1歳以上になると、一部のマウスが自己免疫疾患を発症してしまった。これは、C型肝炎治療薬がない状態でもPD-1の分解が進んでしまう場合があるためだと考えられた。今後、さらに正確にブレーキの制御をすることで、安全かつ効果的にがん免疫療法が行なえるようになることを期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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