地銀復活の条件は、経営者が発想転換出来るか 時代に合ったコストカットは可能!
2022年6月14日 10:31
全国に99行を数える地方銀行のうち、2021年度の実績経費率(営業経費÷業務粗利益)は、上は45%から下は93%まで大きな乖離がある。100万円の業務粗利益を計上するための営業費用が、45万円で済んでいるところから93万円を必要とするところまで点在している。
【こちらも】銀行が精彩を欠くのは、顧客との接点減らしビジネスチャンスも失ったから?
経費率が70%を超えているのは57行に上り、地方銀行全体の60%に近い。中小企業の経営相談を売りにしている地方銀行もあるようだが、中小企業の経営者諸氏は相談に行く地方銀行の経営振りを確認した方がいいだろう。経営状態に問題のある地方銀行が、取引先の経営指導をするのはたちの悪い冗談みたいなものだ。
2020年度~2022年度までの時限措置として日本銀行が導入した特別付利制度は、銀行の収支改善への寄与が見込める。特別付利とは経費率(営業経費÷業務粗利益)を一定程度引下げた地方銀行や、経営統合を実施した地方銀行に対して、日銀の当座勘定に年0.1%上乗せ金利をつけるという制度だ。
経営の危機感が乏しい地方銀行に餌をぶら下げて、効率化を進めようと言うのだから発想の基本は、旧来の護送船団方式(※)と変わらないようにも見える。
経費削減の方途を店舗政策に絞ると、日本経済研究センターの分析が参考になる。全国にある地方銀行の約1万店に及ぶ店舗のうち、3割にあたる約3000店舗には削減の余地があることが試算された。削減した場合に見込まれる効果は、地銀全体の営業経費約2兆5000億円の20%に相当する、5000億円以上に上ると算出された。自前の経費を削減した上に、上乗せ金利を稼げれば地銀の収支状況は改善するだろう。
既に今までにない発想で、対策を行っている例が見られる。
北海道銀行は3月14日、8月に同行寿都支店を閉鎖して約40キロ離れた岩内支店に統合するのに合わせて、今まで競合していた北海道信金寿都支店内に共同窓口と道銀ATMを設置すると発表した。
道銀の行員は置かないで、住所、氏名、印鑑の変更やキャッシュカード、通帳の再発行などの受付業務や、通帳の記帳や繰越などに限定される。口座の解約などは共同窓口に設置されたテレビ通話システムで、道銀本店の行員と手続きを進める。信用金庫の店内に銀行が共同窓口を設置するのは全国初になる。
鹿児島銀行は4月27日、鹿児島県屋久島町の南日本銀行店舗外ATMコーナーに、鹿児島銀行のATMを併設することを発表した。鹿児島銀行の松山頭取は「効率化を考えると、競争すべきことと、協力できることは区別すべきだ。今後南日本銀行のATMを鹿野島銀行の敷地に設置する希望があれば歓迎する」と述べたと言う。
静岡銀行は2018年に河津支店(同県河津町)を稲取支店(同県東伊豆町)と統合したのち、河津支店を河津出張所として窓口業務に特化していたたが、店舗内に余剰スペースを抱えていた。店舗の老朽化で建て替えか移転を迫られていた三島信金の河津支店が、その余剰スペースに納まることで、静岡銀行は余剰スペースの有効活用が実現。三島信金は設備投資負担を大幅に圧縮できて、顧客からは「以前より便利になった」と歓迎されていると言う。落語の「三方一両損」の上を行く、「三方一両得」と言ってもいい話だ。
収支の改善には、多様な方法がある筈だ。挑戦するダイナミズムが組織に残されていれば、改善のチャンスはある。
※護送船団方式:速力の劣る輸送船を守る護衛船が、輸送船の速度に合わせて航行すること。かつての銀行行政が、体力の劣る銀行でもできる程度のスピード感で行われたことを言う。横並び意識の強い銀行業界特有の方式。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)