スピーキングの力をつけるための、効果的な音読学習の進め方
2022年5月31日 08:26
前回は、スピーキング力向上に効果がある中上級者用の学習方法「シャドーイング」について説明した。
【こちらも】シャドーイングで効率よく外国語のスピーキング力をアップする方法
今回は、初級学習者のスピーキング力向上に効果が得られる音読の学習方法について紹介したい。スピーキング力をつけるために最適な方法は、ネイティブと毎日長時間いろいろなジャンルの会話を楽しむことだ。だが仕事を持つ学習者でこのように恵まれた環境を持つものはごく一部。ほとんどの学習者は限られた時間、限られた予算の中で語学勉強を進めている。
独学で自宅あるいは通勤途中の時間などを利用して勉強を進めるとき、読み書き聴くに比べて、効果的な会話学習方法がなかなかみつからない。
スピーキング力向上に効果が高いと言われるシャドーイングは、ニュース・映画などの外国語音声を利用して、自宅でも通勤途中でも気軽に進められる学習方法だ。しかし音声の後を影のように追うシャドーイング学習は、難易度が高く初級者には適していない。初級者がシャドーイングを進める前に、一定期間音読で語彙力を増やし発音の基礎を習得すると、無理なくシャドーイング学習が始められる。
■音読の効果
音読は、読解力や語彙力の向上に効果があるとされ、国語力をつけるために多くの学校で取り入れている学習方法だ。外国語学習で音読を一定期間行うと、発音や表現力の向上にも大きな効果がある。声に出して音読すると、訳読から抜け出して、速く効率的に外国語を処理する習慣が身につくとも言われている。
また、関西学院大学の門田修平教授は、「声を出して何度も繰り返しシャドーイングや音読の練習をすることで、心の中で復唱するスピードが高速化し、語彙力や構文理解力がつき、流暢な発話ができるための前提になる」と指摘している。(出典: シャドーイング・音読の効果:インプット処理の自動化とアウトプットへの転化)
■音読の具体的な進め方
●1. 順序
外国語のスピーキング力を向上させるために行う音読学習では、レベルに合った外国語テキストと音声が必要だ。音読の前にネイティブの正しい発音を聞いて、その後、大きな声で音読を行う。
●2. 教材
東京外国語大学言語モジュールは、27カ国の言語が無料で学べるオンライン学習サイトだ。初級中級の学習者を対象としていて、会話、語彙、発音、文法と4つのモジュールから構成されている。
音読学習の教材としては、初級学習者であれば語彙モジュールの「基礎語彙の学習」ページで学習しよう。中級レベルに達していたら会話モジュールの学習者用ページから「声に出して読んでみよう」をフレーズごとに音読しよう。(東京外国語大学言語モジュールを使った学習方法の詳細はこちらから)
●3. 発音チェック。
外国語習得のための音読学習では、正確に発音できているかどうか、客観的にチェックすることが重要だ。グーグルの翻訳機能などを使って自分の発音が認識されるか確認しよう。
英語では「r」、「l」が、中国語では「chi」、「shi」、「zhi」といった巻き舌音が間違って認識されることが多い。正しく認識されるまで5回でも10回でも繰り返し発声しよう。間違いやすい発音に特化した効果的で効率のよい発音練習になる。
■注意点
(1)「音声を聴く」、「文字を読み発音する」を同時に行わない。前回シャドーイングの解説でも述べたが、人は読むことと聴くことを同時に処理できない。人間の聴覚など感覚入力過程が持つ「選択的注意」というしくみが働き、同時に行おうとすると音声が耳に入ってこないのだ。
必ずまず音声を聞き、一旦止めてから、音読しよう。これに関しては、先述の門田教授が詳しく説明しているので、興味のある人は参考にしてほしい。(関西学院大学 門田修平 『音読を科学的に考察しよう』多聴多読マガジン2020年10月号)
(2)大きな声で音読する。口の形や舌の位置などを意識して大きな声ではっきりと読む練習を行うことで、正確な発音が習得できる。また明朗で正確に発話する訓練になり、人前でも堂々と外国語を話す度胸がつく。
(3)教材のレベルは「i(学習者の現在のレベル)+1~5」。シャドーイングでは簡単すぎるくらいの教材すなわち「i(今のレベル)-1~5」程度の音声を使うと効果的だと説明した。しかし音声を聞き終わった後、テキストを見ながら発音する音読学習の場合、時間の余裕があり難易度も高くない。実力よりも上のレベルの教材を使い、新しい語彙や表現を学びながら効果的に学習をすすめよう。
ビジネスシーンでは、聞いた話に対して当意即妙に返答できるスピーキング力がとりわけ重要になる。音読を一定期間行うことで、スピーキング力の基礎となる3つの柱、すなわち表現力、語彙力、正確な発音を同時に鍛えることができる。さらに大声で音読することによって、実は多くの日本人にとって最大のネックである「人前で堂々と外国語を話す」という度胸が身につくので、ぜひ試してみよう。(記事:薄井由・記事一覧を見る)