【書評】『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(遠藤誉、PHP新書)

2022年5月23日 17:07

*17:07JST 【書評】『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(遠藤誉、PHP新書)
ロシアのウクライナ侵攻で世界が混乱する中、中国の動向の把握、世界を俯瞰した視点は決定的に重要である。

『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(遠藤誉、PHP新書)では、中国のロシア、ウクライナ、NATO(北大西洋条約機構)に対する行動の根底、ウクライナ問題の遠因を作ったアメリカの動き、米中覇権競争の中で見落としてはならないインドの存在、中国の台湾に対する武力行使スタンスの現状などが緻密に整理・分析されている。

中国は少数民族地区を抱えており、プーチンがウクライナでやっているようなロシア人が多い地域の独立国家としての承認に賛同しがたい。また、中国はソ連崩壊後のウクライナとの歴史的な経緯、ウクライナが一帯一路の拠点の1つとしての位置づけられること、NATO加盟国も15ヶ国が一帯一路に加盟していること、中欧投資協定の包括合意を目指していることなどから、ウクライナ侵攻に対して賛同の側に立ちたくない。一方、中国とロシアはともにアメリカから制裁を受けているという共通点で結ばれており、中国は経済的に徹底してプーチンを支えるであろう。これを著者は【軍冷経熱】と名付けている。(ロシアが相当に弱体化しないという前提における)【軍冷】でも、【経熱】であれば、中国としても通貨、エネルギーなどを絡めた非欧米型経済ブロックを形成できる可能性がある。


今回の戦争で誰が得をするのかという視点で眺めてみた場合のアメリカ(バイデン大統領)の動きも、「アメリカに利用されて捨てられたウクライナの悲痛」年表から詳細に分析されている。また、インド、中国、ロシアの関係、それをもとに考えた場合のクワッドに危うさ、ウクライナ侵攻のどさくさに紛れて中国が台湾に武力攻撃をしかけることがあり得ないことなど、本書には世界を俯瞰する視点が凝縮されている。もちろん、著者が最も得意とする中国国内の緻密な事実を拾い上げ、それを元に壮大なストーリーを組み上げる手法は遺憾なく発揮されており、本書に記載されている太陽光パネル基地戦略とイーロン・マスクとの組み合わせも必読である。


著者:遠藤誉(Homare Endo)
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平 父を破滅させたトウ小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(白井 一成との共著, 中国問題グローバル研究所 編集、実業之日本社)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。《TY》

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