「円安倒産」増加 原価急騰でも転嫁困難、中小企業の収益・資金繰りを圧迫
2022年5月13日 08:04
急速な円安が進んでいる。特にロシア軍によるウクライナ侵攻後はさらにその加速度が増している。今年中に1ドル140円に達するという見方も出ている。この円安の動きの背景としていくつかの説明がなされているが、代表的なものは諸外国、とくに米国との金利差によるものだ。欧米先進国を初め世界はウイズコロナの中で経済活動の再開を推し進めているが、サプライチェーンが混乱する中での急激な需要増はエネルギー資源価格や穀物価格などの一次産品価格を上昇させ、米国をはじめ世界各国はインフレ抑制を目的に利上げの方向に金融政策の舵を切っている。その中で日本だけが長期金利上昇を警戒し金融緩和策を維持したままだ。この内外金利格差が円安を助長しているとされる。
また、実需ギャップ面からもこの円安動向は説明される。日本はエネルギー資源の輸入大国であるが、原発停止の影響で輸入エネルギーへの依存度はさらに高くなっている。円安状態での一次産品価格の上昇は貿易収支を悪化させ円売りを導き、さらに2月下旬からのウクライナ侵攻の影響によるエネルギーと穀物価格の急騰がさらなる円安の動きを加速させている。4月からは既に食料を初めとする個人消費レベルの値上げラッシュが始まっている。その中で中小企業の多くが急騰した原価価格を販売価格に転嫁出来ず苦しい財務状態に追い込まれているようだ。
5月2日、東京商工リサーチが「為替関連倒産」についてレポートを公表しているが、これによれば、4月に「為替関連倒産」のうち「円安関連倒産」が4カ月ぶりに発生した模様だ。件数は1件のみであるが、福岡県の貿易商社が新型コロナ感染拡大に伴う業況悪化の下、円安で価格が上昇した商品の輸入制約が追い打ちをかけ破産申請している。原油価格高騰が生じている中、急速な円安進行で原材料や資材などの価格高騰も続いており、仕入原価の上昇分を販売価格に転嫁することが困難な中小企業は多く、仕入コスト急増とコロナ禍での収益悪化が中小企業の経営を財務面から大きく圧迫し始めている。
レポートは「円安基調が一段と強まり、中小企業の資金繰りへの影響が注目される」と指摘する。現在の円安進行は短期的なものでは無く、国債残高や日銀の方針から見て構造的なものとされ、年内に140円超えという声もある。今後は円安で利益を得るグローバル企業や価格転嫁をする力のある大企業と経営体力に乏しい中小企業の間で格差が開き、円安関連倒産も増加傾向で推移すると見込まれる。(編集担当:久保田雄城)