物価上昇でも賃金上がらない理由 人件費が利益圧迫、投資抑制
2022年4月29日 09:34
コロナやウクライナ侵攻の影響で物価高騰が続いている中、賃上げは2%程度であると見込まれている。この構図が続けば日本の勤労者の所得は実質減少と言うことになる。十分な賃上げが実現しない要因には様々なことが考えられるが、人口減少で大幅な需要増が見込めない中で人件費が企業の利益を圧迫しているということも賃上げを抑制する大きな要因のようだ。
4月5日に日本商工会議所が「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」(調査時期:2月、回答企業数:3222社)の集計結果を発表している。これによれば、最低賃金の大幅な引上げにより中小企業の負担感は大幅に増大しているようだ。現在の最低賃金額の負担感については、「負担になっている」と回答した企業は65.4%と6割を超え、業種別では、コロナ禍で大きな打撃を受けた「宿泊・飲食業」で90.9%と最も高くなっている。
本年度に「賃上げを実施予定」と回答した企業の割合は45.8%で、そのうち69.4%が「業績の改善がみられないが賃上げを実施予定」と回答し、あくまでも人手不足下での防衛的な賃上げであることを示唆している。賃上げを見送る予定の企業では、56.2%が「人件費増や原材料価格上昇等の負担増」と回答しており、人手不足下での人件費高騰が利益を圧迫している様子をうかがわせる。「賃上げによる人件費増加への対応」については20.4%、5社に1社が「設備投資の抑制等」と回答しており、人件費高騰が事業計画の円滑な遂行をも阻害しているようだ。
現在の最低賃金額を「負担と感じている」企業の割合を業種別に見ると「宿泊・飲食業」が90.9%で最も多く、次いで「介護・看護業」81.4%、「小売業」81.4%、 「運輸業」79.4%といった労働集約型産業を中心に、人手不足が顕著な業種が目立ち、最低賃金の引き上げがむしろ人件費の負担感を強くし賃上げを抑制しているようだ。
賃上げ実施予定の従業員の属性および賃上げ内容を見ると、「正社員」が95.5%で最も多く、次いで「パート・アルバイト」37.6%と続く。内容は「定期昇給」が79.7%で、「ベースアップ」は34.1%にとどまっている。賃上げのための支援策については「景気対策を通じた企業業績の向上」が57.1%でトップとなっており、業績向上が見込めない中、人件費高騰が利益を圧迫し、賃上げが困難な中小企業の現況が垣間見られる。これまでも人件費高騰が経営を圧迫してきた中で、昨今の原材料価格の高騰でさらに人件費の負担感が強くなり、賃上げしにくい状況となっているようだ。(編集担当:久保田雄城)