積水化学、発火しない軽量シート開発 EV航続距離の延長と火災防止を両立
2022年4月17日 12:57
パンデミックの影響で世界の自動車市場が低迷している中でも、欧州、中国を中心にEv(電気自動車)へのシェアシフトが加速している。環境への配慮からEvへの全面移行は既にスケジュール化しており、欧米中のみならず日本においても2030年代までの内燃機新車販売の禁止が決定済みだ。しかし、Evには解決すべき多くの課題が残されており、その一つが航続距離の短さである。航続距離延長のためには高容量電池を搭載する必要があるが、高容量電池は高熱となるため発火の恐れがあり、現段階での素材では車両火災を起こす危険性がある。安全性を担保しつつ航続距離を伸ばすためには高熱耐性と軽量性をあわせ持った素材が求められ、この課題の解決はEv普及をさらに加速させるものとなる。
この問題に関し、4月1日に積水化学が「EV用高容量LiBセルの発火に対応した『樹脂繊維複合材料』を開発」したと発表している。発表によれば、積水化学工業の高機能プラスチックスカンパニーが独自の高難燃樹脂(塩素化塩ビ)と繊維強化複合技術の活用により高容量LiB(リチウムイオン電池)の発火に耐える「難燃軽量シート」の開発に成功したようだ。同社の説明によれば、近年、航続距離を延長するため部品の樹脂化による車両重量軽減とLiBの高容量化が同時に進んでおり、これを原因としたLiBセル発火によるEv火災事故が頻発しているようだ。この安全性課題を解決するため同社は「遮炎性×断熱性×軽量」な樹脂繊維複合材料を開発、Ev搭載実用化に向け研究を加速させるという。
LiB発火時は激しい炎とともにセル構成部材や集電箔などの金属が高温かつ高速で噴出するため、火災を防止するには、電池パックカバーの非燃焼性と熱衝撃でも穿孔しないことが求められる。さらに、電池パックの上部には車室があり、火炎なしのパックカバーの高温化だけでも乗員の火傷や樹脂部品発火の危険性もある。対策材として無機鉱物含有シートや無機多孔質シートなどが提案されているが重量増その他の様々難点も指摘されている。そこで同社は、独自の複合技術を用い高比率繊維含有での複合化を可能にし、高難燃樹脂である塩素化塩ビをガラスマットに含浸させて新たな樹脂繊維複合材料を作り出した。また、特殊な3層構造とすることで強度を維持したまま、遮炎性、断熱性、そして軽量性も実現している。将来的には住宅用や航空機用、太陽光発電所などの高容量LiBシステムの筐体用途などへの展開も考えているという。(編集担当:久保田雄城)