サトーHD、自動認識技術により社会課題解決に貢献
2022年3月16日 16:32
本日の流れ
小瀧龍太郎氏(以下、小瀧):本日は、こちらの流れでご説明します。
社会の中のサトー
小瀧:最初に、私たちの社会における役割からご説明します。こちらにある図は、プリンタからラベルが出ているイメージで、そのラベルの上に街をイメージし、どのようなお客さまと私たちがビジネスをしているのかを具体的にお伝えするために、少し工夫してみました。
私たちは、バーコードやQRコード、ICタグといった自動認識技術を用いたソリューションをさまざまなお客さまに提供しています。私たちはBtoBの会社ですので、なかなか一般の方々の目に触れることはないとは思います。しかし、この街の絵にあるとおり、私たちが提供しているソリューションサービスにはさまざまなお客さまがいます。食品スーパーや、ファストフード、自動車や電子部品などのメーカーの工場、物流センターや病院のようなお客さまが対象です。
食品表示
小瀧:私たちのビジネスを、みなさまがご自身の生活の中でイメージしやすい例でいくつかご紹介します。まず1例目は、食品スーパーです。お惣菜やお弁当売り場に行くと、スライドの絵のようなラベルを目にすると思います。私たちは食品表示法に則り、アレルギー物質や消費期限などを正確に表示し、消費者のアレルギー被害や食中毒の防止に貢献しています。これにより、消費者の安心や安全を担保しています。
私たちは、このラベルといった消耗品や、ラベルを印字するプリンタ、ソフトウェアなどを提供するビジネスを行っています。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):ここでご質問です。このラベルは御社のシステム、プリンタなどから出てくると思うのですが、これは一貫して納入しているのでしょうか? また、鮮魚やお寿司などは水に濡れやすいと思うのですが、防水加工などは大変なのですか? もともと取扱いのラベルの数はどのくらいあるのかを含め、ラベルについて教えてください。
小瀧:私たちがお客さまの課題を解決するフロントに立ち、ワンストップソリューションを提供しています。私たちはメーカーでもあるため、ラベルやプリンタを一貫した生産体制で提供しています。しかし、お客さまの課題解決に必要な機器やソリューションが他社製であるならば、それらを自社のものと組み合わせて最適なソリューションとしてご提供しています。
また、ラベルは、先ほどお話ししたような業種、お客さまの市場や用途により種類があります。
坂本:それでは、組み合わせで無限にいろいろなラベルが作られるということですね。
小瀧:組み合わせは無数にあります。防水加工のニーズのほかに、たとえば製造業では100度、1,000度の熱に耐えるラベルへのニーズもあります。薬品でこすっても印字が消えないようにしたいですとか、貼る・剥がすを繰り返したい、その反対に、貼ったら絶対に剥がれないようにしてほしいといったご要望もあります。また、貼り付ける対象物によってラベルの基材、粘着剤、サイズが異なります。これらの掛け算で種類の数があり、それぞれに応じたラベルを生産、提供しています。
坂本:今日はラベルをお持ちいただいたので、お見せいただければと思います。
八木ひとみ氏(以下、八木):見た目でも材質が違うことがわかります。
坂本:ピカピカしているものもありますね。
小瀧:このピカピカしているものは、熱にも薬品にも耐性のあるラベルで、パソコンや電化製品の銘版ラベルと言う、規格を示すラベルによく使われています。貼ったら簡単には剥がれず、洗ったりこすったりしても印字が消えないことが特徴です。
八木:その隣にある白いものは、また少し見た目が違いますね。
小瀧:こちらは一度貼ったら、剥がさない場合に用いられます。たとえば、「この棚にはこのような部品が入っている」といった管理・表示の用途です。また、屋外で長期間の使用に耐えるタイプでもあります。
坂本:日光に当たっても大丈夫ですか?
小瀧:はい、紫外線に対して印字が消えにくいタイプです。このように、印字の耐性、紙やフィルムといった基材、粘着剤、そしてサイズの数だけ、ラベルの種類があります。こちらのサンプルはすべて同じサイズですが、実際はお客さまの用途によってサイズが異なります。
坂本:小さかったり、大きかったりするのですね。
小瀧:お客さまの用途に合わせた最適なラベルを提供しています。消耗品ですので、リピートビジネスになります。
坂本:サンプルを見ると、最近はQRコードとバーコードがあるのですね。
八木:本当ですね。
坂本:昔はバーコードのみだったのですか?
小瀧:そのとおりです。2次元コード(QRコード)はバーコードと比較して格納できる情報量が圧倒的に上回るため、広く使われるようになりました。
坂本:それだけ精緻なことが可能なため、スピードにつながるのですね。
小瀧:シンプルなシステムで構築可能という特徴があります。
坂本:最近はやはりQRコードが増えていますか?
小瀧:併用されるケースが多いです。例えば、バーコードとQRコード、バーコードとRFID、いわゆるICタグとを組み合わせて活用することが非常に多くなっています。
八木:現場により求められるものがまったく違いそうです。
小瀧:おっしゃるとおりです。
八木:ニーズをすべて満たしているということですね。
送り状・不在票
小瀧:2例目です。現在、コロナ禍のイエナカ需要も手伝い、インターネット通販、EC業界が急速に成長しています。私たちの生活はますます便利になっているのですが、この便利さは宅配企業の物流サービスに支えられているのです。
例えば、荷物ごとにユニークな番号をバーコードやQRコード化した送り状や、荷物を受け取れなかった場合の不在票などさまざまな仕組みによって、物流サービスの品質は担保されています。
八木:比較的身近なものですね。
坂本:よく不在通知などに入っています。
八木:ダンボールなどにも貼ってあり、ペリッと簡単に剥がせます。先ほどの、貼ったら剥がせないものとはまったく違います。
坂本:ダンボールなどは再利用しなくてはならないため、最終的に剥がす必要がありますからね。
小瀧:お届け先のお客さまから受領印をもらう際に、配達員が送り状の一部だけを剥がしやすいような工夫がされていたりもします。
八木:おもしろいですね。
坂本:剥がせるものもあるのですね。
小瀧:ラベルだけではなく、インターネット通販企業などの物流センターなどに向けて、送り状ラベルを自動で荷物に貼り付ける装置を販売しています。
坂本:省人化も図られるわけですね。
小瀧:いまお話ししたのは物流センターなどのお客さまでのニーズについてでした。一方で、荷物を運ぶ宅配業のお客さまは、荷物を配達する際にお届け先が不在であれば、不在票を発行する必要があります。その不在票を発行するためのモバイル型のプリンタや、不在票などのラベルを私たちは提供しています。
八木:宅配業者のみなさまが腰に下げているものですね。
坂本:一貫して納入しているのですね。
小瀧:日本で配達に関わっている企業はたくさんありますが、大手を含め、広く私たちのラベルをお使いいただいています。
3点照合
小瀧:3例目は、ヘルスケア産業です。病院をはじめとするヘルスケア産業は常に正確性が求められます。患者の取り違え、投薬の間違いなどが起こらないよう、医療従事者、看護師の作業をサポートするソリューションを提供して、医療の安心・安全に貢献しています。
スライドにあるように、バーコードやICタグの技術を使い、患者が付けるリストバンド、点滴に付けるラベル、看護師のIDカードの3点を照合するシステムで医療過誤を防ぎ、治療の履歴をデジタル化して記録するといったソリューションです。私たちは、リストバンドや点滴に貼るラベル、看護師のIDカードといった消耗品とこれらを印字するプリンタを提供しています。
もしこれらがなかったら・・・
小瀧:いくつかの例をご紹介しましたが、もし、お惣菜やお弁当に先ほどのようなラベルが貼っていなければ、消費期限や、アレルギー物質の有無がわかりません。宅配便に正しい届け先を記載した送り状が貼られていなければ、間違いが生じ、荷物が希望日までに届かないこともあり得ます。病院であれば、先ほどの3点照合のようなシステムを利用しなければ安心して医療サービスが受けられないということになります。
私たちは、このような人やモノに情報をひも付ける「タギング」というビジネスモデルにより、正確に管理したい、生産性を高めたい、消費者や患者に安心・安全を届けたいというお客さまや社会のニーズにお応えし、課題解決に貢献しています。
タギングとは
小瀧:タギングとは、人やモノに情報をひも付け、お客さまのシステムにデータを渡して、それが何であるか、どのような状態であるのかなどを分析し、活かす、すなわち、可視化します。これにより、正確、省力、省資源や安心・安全、環境負荷低減といった価値をお客さまへ提供することができます。
スライドの例でご説明しますと、お弁当に貼られているラベルには、先ほどお伝えしたようなアレルギーや値段などの情報が記載され、バーコードとデータがひも付いています。そして、レジで商品のバーコードをピッと読むと、その販売実績データがリアルタイムに本部に届けられます。
本部では、全国から集まった販売実績データをもとに実績分析し、商品の製造量や必要な資材の発注量などを決めたり、商品開発につなげたりします。私たちは、このように自動認識技術を用いて、現場から正確なスモールデータを集め、お客さまのシステムに届けることによって現場改善や経営管理に活用していただき、各業界の活動や発展に貢献しています。
タギングを可能にする自動認識技術
小瀧:リアルな人やモノの情報を認識するために重要な「自動認識技術」とは何かについて簡単にご説明します。言葉のとおり、自動的に情報を認識・収集できる技術のことなのですが、代表的なものとして、バーコード、QRコード、ICタグ、画像、音声などがあります。最近では、人やモノの位置や、温度を測るセンサーなどの活用も増えてきました。このように人やモノのIDや状態を自動認識する技術の総称を「自動認識技術」と言います。今後、DXによるデジタル社会がより本格化していく中で、自動認識技術がその基盤技術の一つになると考えられ、DX推進に貢献する重要な技術であると思っています。
坂本:バーコード、2次元コード、ICタグなどのタギングを可能にする自動認識技術について教えてください。用途により得意不得意やコストの差もあると思うのですが、現在、御社のお取扱いはどのくらいの割合でしょうか? 2次元コードとICタグが増えているのではないかと思うのですが、その現状を含めて教えてください。
小瀧:どれがどのくらいの割合ではなく、組み合わせによりデータをいかに効率よく正確に取るかを工夫して提供しています。おっしゃるとおり、バーコードよりもICタグはコストがさまざまで、いろいろな特徴があります。
RFIDはバーコードのように1件ずつ読み取るのではなく、一括で、しかも非接触で読むことが可能です。この特徴を活かしたビジネスが大変増えています。現在の売上構成比は10パーセント未満になります。
八木:先ほど、自動認識技術はDXの基盤技術になるというお話がありましたが、具体的にどのようなことなのでしょうか?
小瀧:DXとは、今まで見えなかったリアルな世界の人やモノの動きや状態(シンプルな例ですと、配送トラックで運ばれている食品の温度の推移など)を見える化して、問題解決や付加価値につなげる概念です。「見える化」とは、インターネットなどにつないで情報化することであり、主にバーコードやICタグ、画像などの自動認識技術や、センサー技術などが活用されます。このことから、自動認識技術はDXの基盤技術と言えます。
私たちサトーはずっと、自動認識技術を活用したタギングを通じて現場のリアルデータを収集してきました。今後は多様な技術を取り入れるなどタギングを高度化し、より価値のあるリアルデータを収集します。そして社会のDX化、すなわち問題解決や付加価値化を後押ししていく考えです。
サトーグループの歩み 1
小瀧:サトーグループの歩みをご説明します。弊社は1940年に佐藤陽が創業しました。戦時中は木材が不足していたことから、竹を加工して物資を運ぶ竹籠を作るために、スライド左下の写真のような竹材加工機を開発し、製造販売を開始しました。創業者の「現場で働く人たちのお困りごとを解決したい」という思いがすべてのきっかけでした。
高度経済成長期に入ると、日本全国にスーパーマーケットが進出しました。小売店で商品1つひとつの値札を従業員が手貼りしている姿を見て、「もっと楽に値札を付けられないか」という発想から、世界初のハンドラベラーを開発し、これが大ヒットしました。ハンドラベラーで使うラベルを自社生産・販売したことも弊社の今の発展の礎になっています。
その後、スーパーマーケットではバーコードを使ってレジ精算するPOSシステムの導入が進みました。これを受けて、1990年代初頭にバーコードを生成するバーコードプリンタを世界で初めて開発し、販売を開始しました。これを、小売業だけでなく物流業や製造業などさまざまな市場に展開することで、弊社はさらなる発展を遂げました。
このように、プリンタやラベルなどの「モノ売り」を中心に事業を展開してきたのですが、社会の変化や技術の進展とともに、1990年代初頭から「このような問題を解決するために自動認識技術を使ってどうにかならないか」という要望が増えてきました。そのため、お客さまの課題を解決する「コト売り」を中心としたビジネスモデルに転換して、現在まで進化させてきました。
サトーグループの歩み 2
小瀧:一般的な「コト売り」と、私たちの「コト売り」はニュアンスが少し異なります。「モノ売り」とは、スライド左のとおり、「バーコードラベルをもっと速く発行したい」といった要望に応えて、プリンタやラベルを開発・販売することです。
一方、「コト売り」とは、お客さまの現場課題を解決することです。つまり、いろいろなものをインテグレーションして、お客さまの課題解決のために最適解を導き出す課題解決型のアプローチのことを指しており、これが私たち独自のビジネスモデルとなっています。
コト売りを可能にする強み 1
小瀧:30年以上にわたり「コト売り」をしてきた私たちのビジネスモデルの強みについてご説明します。1点目は、さまざまな市場・業界の現場を知っているということです。
食品市場と言っても、そこには食品製造、ファストフード、レストランなどさまざまな業界があります。私たちは長年にわたり多くの業界の現場での運用や用途を提案してきました。そのため、課題解決のための知見やノウハウも蓄積しています。いわゆるカバレッジ力が1点目の強みです。
コト売りを可能にする強み 2
小瀧:2点目は、自動認識技術やいろいろなデバイス、システムなどを組み合わせて最適解を作る力です。ITやネットワークの技術革新が進む中、多様化・高度化するお客さまの課題解決をしていくためには、自前にこだわっていては最適解を提供することはできません。そのため、パートナーと手を組んでベストなソリューションを提供していくことが重要であり、このインテグレーション力が2点目の強みです。
コト売りを可能にする強み 3
小瀧:3点目は、導入後もお客さまの現場を最適化し続けることです。お客さまの現場では、前後の工程も含めて新たな課題が出てくるため、最適化し続けることが重要です。
社会環境の変化によってお客さまの現場も変化するため、私たちはソリューション導入後も保守サービスを通じてお客さまと深く長い関係を維持しています。これによってお客さまに最も信頼され、常に相談される存在を目指しています。このメンテナンスサービス力によって付加価値を生み出しており、3点目の強みだと考えています。
この3つの強みが私たちの「現場力」であると捉えています。現場を知った上で最適なソリューションを提供し続けることはとても手間と時間がかかるため、他社はやりたがりません。ここが私たちの競争優位性だと思っています。
売上高推移
小瀧:売上高推移のグラフです。先ほどお伝えしたとおり、1990年代初頭からビジネスモデルを「コト売り」に転換して国内外で成長を加速してきました。
26ヶ国に拠点を構え、90以上の国と地域でビジネスを展開しています。日本事業が約60パーセント、海外事業が約40パーセントという売上構成比になっています。
坂本:2000年頃から海外事業の売上高が伸びてきていますが、地域ごとに特徴などがあれば教えてください。
小瀧:まず、日本国内には製造業、小売業、ヘルスケア、ロジスティックス、食品と大きく5つの市場があります。米州・欧州では小売業、アジアは製造業を中心にビジネスを展開しています。国土の大きさや、主要産業から、地域・国別に成長戦略を策定し、実行しています。
市場・業界
小瀧:こちらは2020年度の市場別売上構成比です。製造業が30パーセントと最も高く、続いて物流業、小売業が同等の構成比を占めています。
坂本:製造業の売上比率が高い理由を教えてください。これは、製造している段階でタグを貼り付けるからなのでしょうか? それとも、「コト売り」のお話にもありましたが、御社が開発段階から入り込んでタグの活用などを提案しているからでしょうか?
小瀧:簡潔に言いますと、製造業は裾野が広いということです。私たちのビジネスの対象になるお客さまの数が圧倒的に多いのが製造業です。
また、製造業は、扱うもの、作り方、工程管理の方法などがお客さまごとに異なります。そのため、お客さまはそれぞれにカスタマイズされたシステムを利用しています。よって、それぞれに適した課題解決を提案する、すなわち、付加価値を高めて提案しています。お客さまの現場に合わせた最適解を導き、提案するのが私たちのスタイルですので、製造業のこういった特徴に応じられることが強みであり、実績に結びついているのだと思います。
商品・サービス
小瀧:商品別の売上構成比です。プリンタや保守サービスなどのメカトロ商品が40パーセント、ラベルなどのサプライ商品が60パーセントです。サプライ商品はリピートビジネスですので、継続的な収益をもたらしています。
坂本:コロナ禍の影響でメカトロとサプライの比率に変化はありましたか? また、新たなニーズが生まれていたら教えてください。
小瀧:新たなニーズから先にご紹介します。コロナ禍以前から、非接触での作業や人手不足への対応など、「各工程・作業の生産性をとにかく高めたい」というニーズはたくさんありました。コロナ禍では、ICタグと自動化がキーワードとなってきました。人が介在しなくても業務を遂行できたり、人の代わりにロボットが作業したりといったニーズが増大したため、これらに関連した商談が増えています。
構成比は、コロナ禍以前からあまり変わっていません。海外ではメカトロもサプライも想定よりも早く回復しました。また、海外のサプライは全体的に底上げがされました。一方、国内では、サプライは2019年比で回復してきていますが、メカトロは、業界によって回復具合がまだら模様の状況が続いており、コロナ前の水準には回復していません。
社会課題解決に貢献
小瀧:中長期の取り組みについてです。私たちは従前から、自動認識技術で人やモノに情報をひも付け、そこから集めた情報を可視化することでお客さまの現場課題の解決をお手伝いしてきました。今後は、地球規模で取り組むSDGsやカーボンニュートラルに向けたCO2の排出削減などの各企業が取り組むべき社会課題の解決に対して、私たちのビジネスモデルを進化させて持続可能な社会の実現に貢献していこうと考えています。
サプライチェーンにおけるさまざまな問題を、ニュースなどでも頻繁に扱われるようになりましたが、例えば、製造業では衣服の原材料がどのような労働環境で作られたのか、実態を把握するのが難しいという課題があります。また、物流の現場では、ワクチンや冷凍品の輸送中の温度管理が十分でないケースがあり、品質担保の観点からも実態把握は必要です。消費に関しても、大量の食品ロスや、処方された薬がきちんと服薬されていないといった健康管理の観点からも実態把握が必要だと思っています。
今お話ししたのはほんの一例ですが、サプライチェーン上の解決すべき社会課題の大部分において実態が把握・可視化できていないがゆえに、問題の本質・原因がどこにあるのかがわかりにくくなっています。そのため、有効な解決策が見出せていないのが現状です。
食品ロス
小瀧:このような社会課題の解決に向けた私たちの取り組みの一例として、食品ロスを切り口にご説明します。日本では年間約570万トンの食品が廃棄されています。1人あたりに換算すると、毎日ごはん1杯分の食品を捨てている計算です。これは非常に大きな問題です。
このような中で各企業はいろいろな取り組みをしています。スライド中央のイラストを見ていただきたいのですが、お店で買い物するときに、みなさまならどのケーキを手に取りますか? 同じ値段なら、消費期限が3月1日のケーキを選ぶ人が多いかもしれません。
八木:やはり「消費期限が長いほう」という気持ちはあります。
小瀧:そうなれば、消費期限が短いものは売れ残るかもしれません。
次に、お店側に視点を移してみますと、ケーキの在庫はシステム上で確認できますが、それぞれのケーキの消費期限はシステム上で認識することができません。
そのため、現物を見て確認する必要があります。夕方の時間帯になると、棚に並んだ商品の消費期限を1つずつチェックして、売れ残りを減らすために消費期限の近いものから値引きシールを貼っていくという光景を、みなさまもよく見かけると思います。
食品ロス削減への取り組み例 (1)
小瀧:消費期限ごとに価格を変動させることによって、消費者は価格優先か日持ち優先かなど、自分の好みやライフスタイルに合わせて買い物ができるのではないかと私たちは考えました。
例えば「お得に買えるのはうれしいけど、食品ロスの削減にも貢献したい」と考える、環境に配慮した消費行動の持ち主である消費者であれば、Aを選ぶことができます。一方で、「高くても新鮮で消費期限が長いほうがよい」という消費者もいらっしゃると思います。
食品ロス削減への取り組み例 (2)
小瀧:そこで私たちは、商品ごとに消費期限の情報をひも付けて消費期限ごとの残り個数を可視化して、残り個数や日にちによって値段を変動させる、ダイナミックプライシングにより、食品ロスの削減を実現できるのではないかと考えました。
消費期限の近いものをお得な価格にし、まだ日にちのあるものは値段を据え置くというように、状況に合わせて値段を自由に変動させることができます。これにより、売れ残り商品の削減、ひいては食品ロスを減らすことにもつながることを期待しています。
八木:ダイナミックプライシングと言いますとスポーツなどのイメージがありますが、食品ロスにもそのような仕組みが使えるということですね。
小瀧:そのとおりです。電子棚札を活用すれば価格の逐次変更が可能です。消費者は表示された価格を確認して、「今日食べる予定だし、お得なほうを買おう」とAを選ぶなど、自分の希望に合った買い物ができます。一方でお店側は、先ほどお伝えしたように、売り場で各商品の消費期限を確認しながら割引シールを貼る作業自体が不要になるわけです。
この実証実験を今、イトーヨーカドーさまの曳舟店で行っており、たくさんのメディアが取り上げてくれています。このことから、社会の関心が高いことがうかがえると思います。また、モノやサービスの利用を通じて、地球環境など身近にある社会課題の解決に貢献したいと考える消費者が増えていることを示唆しているのではないかと考えています。
食品ロス削減への取り組み例 (3)
小瀧:これまでのご説明のまとめです。バーコードには「何が」というデータがひも付いていますが、消費期限である「いつ」というデータはひも付いていません。この「いつ」という情報を商品にひも付けることにより、ライフスタイルに合わせた消費行動に適応すると同時に、値付け作業を排除して生産性を高め、食品ロス削減はごみを減らすことにつながり、地球環境保護への取り組みを推進するという価値を生み出すことができると考えます。
このように、今までできなかった「モノの情報化」を通して社会課題を解決するという新たな価値を生み出し、企業や産業社会の変革をお手伝いしていきたいと考えます。
タギングで持続可能な社会に貢献
小瀧:スライドの図は、長期の成長戦略を示したものです。横軸でお示ししているとおり、より多くのものを、廃棄するのではなく再利用できる社会にするため、いわゆる循環型経済(サーキュラー・エコノミー)のシステムを構築することを視野に入れ、サプライチェーン全体に波及する社会課題の解決に取り組みます。それと同時に、縦軸にあるように、「モノの情報化」を実現するため、人やモノに情報をひも付けるタギング技術の研究開発に挑戦していきます。
この縦と横の両輪で、「Tagging for Sustainability」という私たち独自のビジネスモデルに進化させていきながら、持続可能な社会の実現に貢献していくという長期展望を描いて活動しています。
中期経営計画 連結目標
小瀧:中期経営計画の配当株価についてです。2021年から2023年までの中期経営計画の連結目標は、スライドのとおりです。お客さまの業績回復や業界ターゲットを絞った取り組みで、2021年度は増収増益を見込んでいます。グラフ下部に記載のとおり、第2四半期の決算時に売上高を上方修正し、営業利益を据え置きとしています。
国内外ともに、旺盛な需要が継続しています。トップラインの伸びが期待できる一方で、中長期の成長を見据えた投資などに係る費用が増加していること、さらにはコロナ禍の影響によるサプライチェーンの混乱で、電子部品の調達難、原価コスト増など、諸コストの増加が、利益を圧迫しています。ちなみに、直近の2021年第3四半期の連結実績は、前年同期比で増収増益でした。
坂本:そのような影響を受けたりしても、最近の早いタームで業界の環境が変わり、ニーズも変わっているということですが、2023年度まで予定されている中期経営計画の変更はあるのでしょうか?
小瀧:期初には想定していなかったことが発生しています。例えば、私たちの海外にある工場では、コロナ禍でのロックダウンや豪雨などの災害により、稼働率が大きく低下した時期がありました。また、部品の調達難が一部継続するなど、まだまだ不透明感が残っています。そのため、慎重に見極めながら判断していきたいと考えています。
コスト増加などの問題に直面していますが、好調業界の需要をしっかり捉え、計画達成に向けて取り組んでいるところです。
配当
小瀧:2021年度の年間配当です。不確実性の高い状況は続いていますが、私たちは安定配当の方針を継続し、2021年度は中間配当35円、期末配当35円の合計70円を予定しています。
坂本:株主還元についておうかがいします。2000年くらいから増配を続けており、現在の配当性向は50パーセントとけっこう高くなっています。この中期経営計画で収益拡大の目標を掲げられており、これが達成した場合は、現在の50パーセント超の配当性向を維持されるのでしょうか? そのあたりのイメージがありましたら、教えていただきたいと思います。
小瀧:私たちは配当性向を指標にしておらず、この資料でも参考として記載しています。私たちの配当方針はとにかく安定配当を継続することです。配当方針に則り、株主のみなさまへの配当を考えていきます。
株価 (5年)
小瀧:株価の推移はご覧のとおりです。
質疑応答:半導体不足の影響について
坂本:お話の中でもありましたが、半導体の不足が取り沙汰され、いろいろなところでニュースになっています。御社のビジネスにおいても、納期が延びるなど影響はあるのでしょうか?
小瀧:ここまで影響を受け、長期化するとは、想定していませんでした。プリンタ商品の中で供給制約があるのは主力モデルがメインで、そのバックオーダーを抱えています。
詳しくご説明しますと、第2四半期にバックオーダーを多く抱えました。ロックダウン中であっても工場の稼働率を上げるよう取り組み、部品の調達難にも対応してお客さまニーズに応えるべく生産量を増やしました。そのことにより第3四半期にバックオーダーを多少は解消できましたが、海外を中心に、いまも受注残があります。
この調達難の状況がしばらくは続くと予想しています。ただし、現在把握している範囲ですと、バックオーダーは2023年3月期の第1四半期頃までに何とか解消できると見ています。
質疑応答:他社製品との併用について
坂本:「ラベルやプリンタを販売する際、顧客が御社と競合のラベルやプリンタを併用していることはけっこうありますか?」というご質問です。
小瀧:ございます。お客さまの現場ごとに、用途が20も30もあります。ですので、他社製品がその中で使われていることはあります。
私たちが大事にしていることは、お客さまが直面している問題に真摯に向き合って解決することです。そのことにより信頼を勝ち取ってご相談いただけるように、「プリンタメーカーのサトーさん」「ソリューションプロバイダーのサトーさん」ではなく、その会社にとってのパートナーと位置付けていただけるようなお付き合いをしています。
他社製品の入れ替え、もしくは社会課題の変化に伴い新たな取り組みをする際に私たちにご相談いただけるよう、そこに重きを置いて営業活動をしています。
質疑応答:今後、より注力したい市場分野について
八木:私も少し気になる部分ではありますが、「今後、より注力していきたい市場分野があればぜひご教示ください」という質問を会場からいただきました。
小瀧:どれも社会を支えている市場であり、重要なことが前提ですが、製造業とヘルスケア市場は大変大きな価値があると思っています。
製造業は、社会に流通している「モノ」を作っている産業です。デジタル化、さらにDX化が進んでいますが、人々が生活しやすく、人生100年時代を楽しく過ごしていくためにも、やはり社会全体の最適化が重要だと思います。
モノの情報や状態を可視化することにより、今まで見えていなかった社会全体の問題の発見や課題解決法を具体化でき、いろいろな気付きがつながることで新たな価値が生まれます。
そのため、モノづくりを仕事とする製造業と、人々の健康管理・維持を担うヘルスケア市場がキー産業になります。そこを中心に食品、物流、ECを含む小売りなど、それぞれの市場が密接に関わりあうと考えているため、2つの市場がキーになると考えます。
質疑応答:デジタルタギングについて
八木:「DXのお話がありましたが、例えばタグを紙やシールなどではなくデジタルタギングに転換することは考えていますか? できませんか?」という質問をいただいています。
小瀧:先ほどご紹介したイトーヨーカドーさまで実証実験した取り組みなど、さまざまなシーンでデジタルタギングが活用されるようになると思います。社会変化や技術が進化する中で大事なことは、ラベルやタグのみではないタギングの方法を考えていくことです。例えば、情報化したいモノ自体に埋め込むなどです。
例えば、小さなセンサーの入ったシールを皮膚に貼り付けてバイタルサインを取れるようになったことなどから、アプローチは増えました。ただし、そのバイタル情報をどう集めるか、集めたデータをどう活かして価値を出すかがそれよりも重要です。デジタルタギングというのは手段の1つであって、ラベルも手段の1つです。
八木:目的ではないということですね。
小瀧:そのとおりです。機器を対象物に埋め込むなど、データを集めるための方法をどんどん広げていくことが、さまざまなビジネスチャンスにつながると思っています。