脱炭素社会の切り札は木造ビル? 木造住宅メーカーが挑む、日本初のモデルハウス
2022年2月13日 20:17
脱炭素社会への取り組みが世界的に加速する中、木造注文住宅を手がける株式会社アキュラホームが大変興味深い挑戦を行っている。同社は昨年秋、純木造8階建ての新社屋建設計画を発表して話題となったが、今度は何と、日本初の木造軸組工法による5階建てのモデルハウスの建築を発表したのだ。
「日本の建物」といえば、木造建築をイメージする人は多いだろう。住宅をはじめ、寺社仏閣など、木造建築は日本の気候風土にも適しているし、木材特有のぬくもりは私たち日本人の心を和やかにしてくれる。その証拠に、内閣府が令和元年に実施した世論調査でも国民の75%が木造住宅を指向していることが報告されている。
とはいえ、現在、日本国内の建築物のうち、非住宅分野においては3階建て以上となる建物のほとんどが、鉄骨やRC構造による「非木造」の構造によって建築されているのが実情だ。では、どうして中大規模木造建築が普及しないのだろうか。そのいちばんの理由は建築コストがかかりすぎることにある。
これまでの方法で中大規模木造を建築し、それに適した耐火性能や耐震性能を実現しようとすれば、同規模の鉄骨やRC構造の1.2 倍程度ものコストがかかるといわれている。また、特殊部材や特殊構法などを用いるため、それを熟知した技術者も必要となる。
アキュラホームの取組みで最も興味深いのは、なるべくこういった特殊な部材や技術、構法を使わず、伝統的な在来軸組工法やプレカットなどの慣れ親しんだ技術を応用することで、普段から木造住宅に携わる多くの工務店が従来の技術の延長で3階建て以上の非住宅建築物を施工できるようにしようとしている点だ。同社の試算によると、この方法を用いれば、これまでの中大規模木造建築から3割安のコストダウンが図れる。つまり、鉄骨造やRC 造と同等の普及価格で提供することが可能になるのだ。
ビルオーナーの新たな選択肢となるのはもちろんのこと、木造建築は他の構造より工期が短く、早い運用が開始できるとともに、減価償却期間が短いなどの税制上のメリットもある。また、全国の工務店にとっても新たなビジネスチャンスになる。現在、住宅建築の約9割は木造で建築されており、そのうち7 割以上を全国の工務店が供給しているといわれている。これまで3階建て以上の中大規模建築は、鉄骨造やRC 造の独壇場だったが、一般的な地元の工務店でも建築可能となれば、一気に中大規模木造建築が普及するかもしれない。
木造建築の普及は、地球環境改善にも貢献する。林野庁によると中大規模建築物を木質化するとCO2 排出量が4 割も削減されるというのだ。しかも、木材の利用が促進され、森林の活性化にもつながる。政府も木造建築の推進を強化しており、3 階建て木造住宅を建てやすくするため、高さ制限の緩和等の法改正案を検討している。
アキュラホームによる、日本初の木造軸組工法による5階建てのモデルハウスは、今夏に竣工する予定だ。このモデルハウスを皮きりに、都市部で木造ビルが普通に並び立つようになれば、とても日本らしい脱炭素社会が実現できるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)