相場展望1月17日号 岸田首相ばら撒き資金⇒小林虎三郎流教育投資⇒日本の高度成長再び⇒借金1,000兆円返済 米国FRB「雇用⇒インフレ抑制」に舵を切った

2022年1月17日 09:37

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)1/13、NYダウ▲176ドル安、36,113ドル(日経新聞より抜粋
  ・金融政策の早期正常化が進むとの警戒感から、ハイテク株と高PER(株価有益率)銘柄の売りが主導して下落した。テスラ▲7%安、エヌビディア▲5%安。マイクロソフトとセールスフォース、アップル3銘柄でNYダウを▲170ドル下げた。
  ・ブレイナードFRB理事は1/11、上院の公聴会で「インフレは明らかに米国民を苦しめている。テーパリング(量的緩和の縮小)の完了後、できるだけ早く利上げを開始する準備を整えている」と述べた。この発言を受け、FRBがインフレ抑止にため、(1)早期の利上げや(2)保有資産の縮小の可能性が改めて意識された。
  ・金利先物は、3月の利上げ予想の確率が8割を超えた。
  ・景気敏感株は買われ、キャタピラー、ボーイング、デルタ航空が高い。

【前回は】相場展望1月13日号 米国株の懸念材料 (1) 政治 (2) 軍事 (3) インフレ (4) 金利 (5) オミクロン

 2)1/14、NYダウ▲201ドル安、35,911(日経新聞より抜粋
  ・12月小売売上高が前月比▲1.9%減、予想▲0.1%を大幅に下回ったのは、インフレの影響でネット通関含めて販売が落ち込んだ上に、新型コロナ変異型オミクロンの感染拡大で外食も低調だったためで、投資家心理を冷やし消費関連を中心に売りが出た。
  ・JPモルガンチェースは決算発表したが、貸倒引当金取崩し益を計上したことが判明し▲6%大幅安となり、1/17発表のGサックスなど他の金融株にも売りが波及した。
  ・反面、原油価格の上昇を受けシェブロンが買われ、ディフェンシブ株が上昇した。
  ・前日下げが目立ったハイテク株に買いが入り、マイクロソフト、アップルが高い。

●2.米国株は、「高値警戒感」が台頭か

 1)VIX(恐怖)指数 1/13に20.31と、高値水準圏に入る 
  ・1/3    1/14   変動率
   NYダウ 36,585ドル 35,911  ▲1.84%下落
   VIX指数 16.6    19.19  +15.60%上昇
  ・VIXがNYダウに強めの反応をしたことに、先行き不透明感の強まり?に注目。
  ・長期金利が低下した要因は、債券の売り方の買戻しによる利益確定売りのためで、金利の先高観は崩れておらず、継続している。

 2)ブレイナードFRB理事は、次期FRB副議長としての上院公聴会で「インフレで米国民は苦しんでいる」と述べたが、強硬なハト派として知られ、公聴会の直前まで「金融緩和」を主導してきただけに、彼女の真逆の発言には驚いた。公聴会前には、上院議員から「高インフレを主導した首謀者との非難」質問が用意されていると報じられていた。12月インフレ率+7.0%の高インフレまでアクセルを踏み続けてきたブレイナード理事は、自分の言動を正当化するため、「極端な急ブレーキ」か「後手・後手」の対策になりやすい。株式市場関係者にとって、警戒感を持たせるのに十分な議会証言だったと思う。

 3)米株式市場は、ブレイナード氏の副議長就任により「緩やかな金融引き締め」を期待していただけに、「タカ派への転向」発言に強く反応し、株価は売られ大きく下落した。

●3.ブレイナードFRB理事の1/13議会証言(フィスコ)

 1)「インフレは、明らかに米国人を苦しめている。インフレを低下させることが最優先課題だ。テーパリング(金融緩和の縮小)完了後、できるだけ早く利上げを開始する準備を整えている」と述べた。

 2)ブレイナード理事の発言を受け、「FRBがインフレ抑止のため、
  (1)早期の利上げや
  (2)保有資産の縮小に動く可能性」が、改めて意識された。
  3月の利上げ予想確率は8割を超えた。

●4.国連報告書、世界経済成長率は新型コロナ感染拡大で、2023年にかけて鈍化(ロイター)

 1)国連は1/13、世界経済の成長率は2021年5.5%、2022年4.0%、2023年3.5%に鈍化するとの見通しを示した。

 2)鈍化理由は、財政・金融刺激策の効果が薄れ、供給網の大きな混乱が表面化。

 3)世界のインフレ率は2021年5.2%に高まり、景気回復に新たなリスクになっている。

●5.米アトランタ連銀、10~12月期GDP見通しは、従来6.8%⇒5%へ引き下げ(フィスコ)

●6.米企業在庫、11月は+1.3%増、自動車は大幅増(フィスコ)

 1)世界的なサプライチェーン(供給網)の混乱は最悪期を脱した可能性を示唆。

 2)しかし、オミクロン株の感染拡大により、供給網混乱解消が遅れることが懸念される。

●7.米1月ミシガン大学消費者信頼感指数68.8、12月70.6から予想以上に低下(ロイター)

 1)低下理由:(1)新型コロナ・オミクロンの感染拡大 (2)インフレの高進

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)1/13、上海総合▲42安、3,555(亜州リサーチより抜粋
  ・新規コロナの感染再拡大が不安視される流れとなった、「ゼロコロナ」政策を進める中国では、感染対策として行動制限が強化されている。
  ・北京市に隣接する天津市は1/12、重要な政治イベントである「両会」(人民代表会議、政治協商会議)の開催を延期すると発表した。
  ・天津はじめ感染が集中した地区では、操業が一時停止する工場が相次ぐ状況だ。
  ・北京冬季五輪開催を控え厳戒態勢が続いた場合、実体経済も落ち込む危惧がある。
  ・週明けにかけて重要な経済統計の発表が集中することも買い手控え要因となった。
  ・業種別では、消費関連・不動産が下げ、反面、エネルギー・銀行が上げた。

 2)1/14、上海総合▲34安、3,521(亜州リサーチ
  ・新型コロナ再感染拡大を不安視した流れとなった。北京冬季五輪の開催を来月に控え、感染が集中する地区では都市封鎖などの行動規制が実施された。
  ・海関総署(税関)が公表した12月中国貿易統計はまちまちの内容だった。輸出は市場予想を上回ったが、輸入は下振れした。
  ・週明けの1/17に10~12月GDP、12月小売売上高の発表を前に買い手控えられた。
  ・業種別では、石油関連が下げ、反面、医療機器・バイオ薬品が買われた。

●2.中国12月鉄鉱石輸入は前年比▲4.3%減、大気汚染対策で鉄鋼生産規制(ロイター)

●3.中国12月貿易収支+944.6ドル黒字、予想+739.5億ドルを上回る(フィスコ)

●4.中国不動産開発の広州富力を「一部債務不履行」にフィッチが格下げした(フィスコ)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)1/13、日経平均▲276円安、28,489円(日経新聞より抜粋
  ・国内で新型コロナの感染が急拡大しており、内需系銘柄に売りが広がった。
  ・米長期金利の上昇への警戒感が強く、グロース(成長)株に値下がりが目立った。
  ・東京都は1/20に感染者が9,500人超の試算があい、国内景気の回復期待が後退し7&Iなど小売株やJR東海など鉄道株が大きく下落した。
  ・インフレ抑制のため米FRBは、(1)早期利上げ(2)量的緩和の縮小に迫られて、長期金利が一段と上昇するとの懸念が拭えず、キーエンス・リクルートなど高PER銘柄が値を下げた。反面、資源高・長期金利上昇で割安の総合商社・素材株が上昇した。

 2)1/14、日経平均▲364円安、28,124円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式市場が下落した流れを受け、東京市場でも成長(グロース)株を中心にリスク回避の売り優勢となり、下げ幅は一時▲600円に迫った。
  ・前日のブレイナードFRB理事の発言をきっかけに、米金利の先高観が再び強まり、高PERのハイテク銘柄中心に売りが広がった。
  ・為替市場では、株安の歩調を合わせて円高・ドル安が進み113円台後半まで上昇。輸出企業の採算悪化を意識した売りが増え、下げ幅を拡大した。
  ・ロイターが、「日銀の2%目標前の利上げ開始を検討」と報じられ、重荷になった。
  ・日銀のETF購入を意識した売買も膨らんだ。
  ・レーザーテク・ソフトバンクG・トヨタが下げ、ファストリ・7&I・海運が高い。

●2.日経平均は三角保ち合いの交差点28,150円に、1/14到達、今後は上放たれ?下放たれ?

 1)結論:株式相場は「急激な金利上昇を嫌う」ため、「下放たれ」の可能性が高い。

 2)理由:
  ・米長期金利(10年)は1/13、1.81%⇒1.71%に急低下した。これは、債券の売りをした投資家が、利益確定の買戻しをしたことによる金利低下と見ている。
  ・したがって、この金利低下は「一時的」なもので、米FRBの金融政策転換によって金利上昇の流れは間違いなく続くと思われる。
  ・やはり、米債券は売り直され日本時間1/15に1.79%まで戻ってきた。このことから、債券市場も金利上昇が続くと見ていると判断できる。
  ・米国株式のナスダック総合は、1/13に長期金利低下を好感して上昇する環境にもかかわらず、逆行し大幅下落したのは、株式市場も「金利上昇」と見た動きをしたと理解できる。
  ・米FRB次期副議長のインフレ抑制への強い意志表明からして、金利上昇は緩やかな上昇ではなく、ある程度急ピッチな上昇になりそうだ。米株式市場も「急ピッチな金利上昇」は予想外であることから、「冷や水」を掛けられた展開になる可能性が増した。
  ・日本株は米国株の動向次第になると思われることもあり、「下放たれ」となる可能性が高い。

●3.岸田首相の「賃上げの法人税減免額」⇒『人財投資』に振り替え⇒「日本の再生」に

 1)岸田首相提案の法人税減免による賃上げは、不公平を拡大し、日本を駄目にする。
  ・官製の賃上げは企業マインドの劣化⇒国力低下を招く。
  ・企業の1株利益(EPS)の低下傾向を助長 ⇒ 株価にはマイナス要素
  ・賃上げの法人税減免対象は、利益を出し税金支払う企業の従業員に限られ、構造上大きな欠落がある。
  ・赤字企業の従業員は対象の切り捨てとなり不公平。大手企業の従業員は少なく、赤字が7割を占める中小企業従業員が多数を占める。
  ・また、非社員・派遣社員は恩恵の対象外となろう。
  ・赤字転落した場合、補填を受けられなくなるが、賃下げは可能か?
  ・減免適用は1年限りなのか? 継続適用なのか? 不明⇒これも制度不良。
  ・対象賃金の範囲も不明。付随する手当・賞与・福利費などを含むのか?

 2)政府がやるべきことは、貿易立国としての国際競争力を高める成長への方向付けと、企業の後押しではないか。
  ・これからの日本にとって必要なのは、
   (1)貿易立国としての新たな次期目標設定
   (2)企業の後押しと投資資金の支援
   (3)実務を担う人財育成の教育投資
   であろう。

 3)日本は貿易立国で成功するしか国民を養っていけない ⇒ 教育投資で人財育成を
  ・貿易立国と人財投資の正しさは歴史が証明している。
  ・平清盛は貧しい日本を豊かな国にするため日宋貿易に着眼し、兵庫に港を築き、都を京都から移転させた。
  ・明治維新後、産業の近代化と教育の普及・高等化を通じて貿易で強国にした。
  ・それを可能にしたのは、江戸時代の「寺子屋」と「藩校」で教育を受けた大勢 の人々の存在がベースにあった。
  ・太平洋戦争敗戦で無一文になった日本を再生できたのは、教育を受けて生き残った国民による活躍で、加工貿易の成功を通じて高度経済成長をとげ、 1兆ドルを超える米国債保有国になった。
   ・原油が高騰しても産油から購入でき、電気も使いたい放題で飽食が許されるのも 高度成長をもたらしてくれた先代の日本人のおかげである。
  ・日本は人財以外に資源はなく、現在は高齢化が進んでいる。
  ・幸い、日本には高度成長がもたらしてくれた先人から受け継いだ資金と教育を受けた国民がいる。
  ・しかし、現状は、資金を有用に使える人財のレベルアップが待ったなしの域にあり、『人財育成の投資』が必須である。
  ・米百俵の小林虎三郎ではないが、人材⇒人財へ転換させる教育投資、が必要
  (注)幕末、官軍と闘った長岡藩は敗れ、城下は焦土化した上に藩の収入となる石高は約3分の1に減らされ、藩士は窮乏した。その時、支藩から米100俵の支援があった。小林虎三郎は、「米百俵は、食べてしまえばすぐになくなる。売却で得た資金を『教育』に充てれば、明日の1万、100万俵になる」と説得し、米100俵を売却して得た資金で「学校を設立」し、人財育成をした。

 4)政府の役割
  (1) 国民・企業への成長戦略を含んだ国家存立目標の明確化と強力推進。
  (2)生産性向上の促進 : 生産性向上分を原資として、その中から賃金増。
  (3)世界的競争力のある新製品・商品の開発力向上
  (4) 世界経済の中の日本の位置づけの引上げ

 5)年収2,000万円以上がごろごろいるキーエンスに賃金上げの法人税減免に意味があるのか?
  ・キーエンスは、(1)高い経営力と(2)働きやすい環境(3)優秀な人財を集め、提案型営業で顧客が抱える難題に解決方法を提示・実現することで顧客満足度  を高め、顧客の支持で高成長・高収益を実現・高賃金を持続成長させている。 従業員を目標に向かって駆り立てた結果の高報酬であり、決して甘やかしてはいない。
     キーエンス株価推移  2012年2月1日 ⇒ 2022年1月4日
                  4,320円      73,000円

 6)岸田首相は、賃上げが「分配⇒消費⇒成長」という図式を描いているが、貯蓄率が高く・将来不安を抱える日本では、賃上げが「分配⇒貯蓄」となり、分配金が消費にそして経済成長へと循環しない。
  ・脆弱な経済基盤の上に立つ日本国民を、働かなくても給料が増えるという、麻薬漬けにしてはいけない。
  ・生産性向上の裏付けない賃上げは、日本のコストを高め諸外国とコスト競争で負け、より一層、貧しい国への方向に誘導する。つまり、世界における日本の埋没、沈下を促進することにつながる。

 7)世界で喜ばれる製品・商品を日本が提供する。さすれば、自ずと日本企業は世界を引っ張る富裕国に再生でき、国民は豊かになり、世界における日本の地位は上がり、株価は上昇する。財務省の頭では、借金返済は増税と経費削減しか知恵がでない。1,000兆円規模を超える国の借金を、増税しないで返済が達成できよう。

 8)まとめ
  ・岸田首相の「賃上げした企業には、法人税の減免措置」は、日本全体としてみると「付加価値を挙げなくても賃上げしなさい」、ということである。働かなくても給料がもらえる旧ソビエトのコルホーズとソホーズを作るようなものである。
  ・「賃上げしたら、法人税を減免します。それで税収が減少したら、赤字国債発行で政府歳入補填、つまり政府赤字を増やします」と言っているようなもの。
  ・小林虎太郎の「米100俵」の教えから言うと、「米=税金」をヘリコプターからばら撒いて賃金を上げる、というようなもの。しかも、「米」受取人にばらつきがあり、一部の利益が出せる優良企業の従業員しか受け取れかねない。
  ・法人税も払えない赤字企業で働く大多数の低賃金の従業員は対象外である。その賃金補填も一過性の可能性があり、企業としては「補填がないから、賃下げします」とは従業員に言えないから、受給辞退企業が続出しそうだ。
  ・よって、賃上げのための法人税減免制度は立ち行かなるだろう。制度設計としてはボロボロである。
  ・小林虎太郎は、米をばら撒いたら空腹は一時満たされるが、それで終わってしまうと考えた。「米100俵は、藩救済のための人財つくりの教育に投資した方が、その人財が庶民の生活 をより良く、より多くの人に、より長い年月にわたって導いてくれる」という趣旨で長岡藩の藩士を説得した。教育投資の結果、山本五十六はじめ国家の優秀な逸材を多数輩出し、日本の各方面でリーダーとなり改革に資した。教育委員会の話では、「山本五十六は首席ではなく、彼を上回る人は多数いた」そうだ。教育投資の結果が「米100俵」を大きく上回ったと言える。
  ・岸田首相は、小林虎三郎の遺訓を学び、法人税減免額を日本の人財投資と戦略投資に充当していただきたいと「聞く耳」に願うばかりである。

●4.企業物価指数は前年比+8.5%、市場予想+8.8%から下回る(フィスコ)

●5.企業動向

 1)日立製作所 日立建機の株式26.1%を1,825億円で伊藤忠・日本産業へ売却(NHK)
 2)キヤノン  中国・珠海(広東省)のデジタルカメラ工場閉鎖を検討(ロイター)
 3)キリン   中国での清涼飲料製造から撤退を検討、売却額1,000億円前後(NHK)
         ビール事業は継続
 4)日清オイリオ ドレッシング類を4/1から3~13%値上げ(FNN)

●6.企業業績

 1)ファストリ 9~11月期純利益+935億円、前年比+33%増、予想+727億円(日経新聞)
 2)7&I   2月期純利益+2,150億円、前年比+20%増、予想+2,051億円(日経新聞)
 3)アステリア 2月期営業利益+10⇒+34億円上方修正(フィスコ)
 4)TKP   3~11月期営業赤字▲11億円、3~8月期比▲5億円赤字増(日経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2201 森永製菓  業績堅調。
 ・2502 アサヒ   業績好調。
 ・2607 不二製油  業績堅調。
 ・4188 三菱ケミカル 業績好調。

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