直面する脱炭素化への課題 勝機を探る日本の技術力

2021年12月26日 12:41

 脱炭素をけん引する欧州が今、エネルギー価格の高騰にあえいでいる。欧州では、再生可能エネルギーへの転換を積極的に推し進めた結果、2020年、再生可能エネルギーによる発電量が初めて化石燃料を上回った。シンクタンクの独アゴラ・エナギーヴェンデと英エンバーの発表によると、再エネ電力の比率は38%にも上る。しかし、今年は悪天候の影響で、再エネの発電量が低下してしまった。CO2排出の少ない天然ガスで火力発電を動かすことになり、エネルギー価格の高騰を招いてしまった。

 脱炭素に向けた動きは、電力を必要とするものが多い。例えば自動車や暖房器具の脱炭素化も、全て代替するのは電力だ。今後、CO2排出量を順調に減少させていく為には、「電力をいかに効率良く使用していくか」に掛かっていると言っても過言ではないだろう。日本の企業でも、各分野において、電力を上手く利用していく研究・開発が行われている。

 電子部品メーカーのロームでは、AC 電源を搭載する家電・産業機器に向けて、省電力化・高信頼化を実現した、小型面実装・45W出力のFET内蔵 AC/DCコンバータIC「BM2P06xMF-Z」を開発した。同社の低損失パワー半導体と制御回路などを1パッケージ化したこのICは、独自の低待機電力制御技術を駆使したことと、システムに搭載必須とされていたものの電力損失源になっていた放電抵抗器を不要にしたことで、システム待機時の消費電力を一般品比90%以上削減できるという。加えて、高電圧に耐えられる信頼性を備えているほか、面実装パッケージで基板への自動実装が可能であったり、電源回路部品を4点削減できたりと、採用しやすい特徴を兼ね備えている優れものだ。家電や産業機器など、あらゆるアプリケーションで、省エネ化に必要不可欠な半導体の進化は、国内外問わず注目を集めている。

 自動車部品メーカーの株式会社ジェイテクトでは、人工光合成によって生成される材料の一つである「ギ酸」を燃料にする直接ギ酸形燃料電池について、国内初・50W級機能実証機を開発した。「J-DFAFC(JTEKT-Direct Formic Acid Fuel Cell)」と名付けられた直接ギ酸形燃料電池は、固体高分子形燃料電池(PEFC)の一種で、燃料としてギ酸水溶液(HCOOH)と空気中の酸素(O2)を用いて発電する燃料電池だ。金沢大学教授の辻口准氏と共同研究を進めてきたプロジェクトで、低騒音、低振動で長時間の発電が可能。脱炭素やカーボンニュートラルへの貢献に役立てたい考えだ。

 大手通信サービスのNTTは、通信に電子に代えて光素子を使う「IOWN(アイオン)構想」という新技術の開発に取り組んでいる。現行の5Gインフラで導入が進んでいるクラウド基地局には、ネットワークの消費電力問題を抱えている。国立研究開発法人の科学技術振興機構(JST)の調べによると、世界のIT関連の消費電力量は、2050年に18年比約200倍に達すると予測されている。同社の構想は電力消費を今の100分の1に抑えることが可能で、「6G」以降の重要技術と位置付けている。

 紹介した企業はほんの一部であり、エネルギー問題への挑戦は、数多くの企業が意欲的に取り組んでいる。今回のエネルギー問題は、脱炭素に向けて進む上で、否応なく立ち塞がる課題の、氷山の一角に過ぎない。脱炭素を含め、今後、世界が直面する問題は、見方を変えれば「技術力の見せ場」とも捉えることが出来る。かつて「モノづくり大国」と呼ばれた日本企業の、華々しい面目躍如に期待したい。(編集担当:今井慎太郎)

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