【小倉正男の経済コラム】岸田首相の「新しい資本主義」は「昭和の資本主義」
2021年12月20日 08:02
■株式マーケットにはずっと敵対的スタンス
岸田文雄首相の「新しい資本主義」というのは、いまだに中身は定かではない。
「新しい資本主義」は、曲がりなりにも岸田首相の看板政策である。店舗で例えると、やたら看板ははっきりしている。しかし、何の店舗なのか、どういう店舗で何を売っているのか、さっぱりわからない。
衆院予算委員会で立憲民主党議員が、自社株買いについて「企業が利益を株価上昇にばかりに使うのは問題だ」と質問。岸田首相は「ガイドラインか何かは考えられないだろうかとは思う」と応じた。いわば、同調してみせた。そのやり取りで株式は一時急落した。
野党の立憲民主党は相変わらず不勉強だが、それに同調めいた発言で軽々に対応した首相も首相である。現状では、自社株買いに規制を入れることを検討しているわけではないようだが、岸田首相は株式マーケットにはずっと敵対的なスタンスにみえる。
岸田首相は、所信表明でも四半期決算を見直すといった演説を行っている。経営者が四半期決算によって短期的な利益に走っていると思い込んでいる模様だ。これも具体的にどうするということではない。だが、ディスクローズ(情報開示)軽視とみられる発言を軽々にしている。では思いつきなのかといえば、どうやらこのスタンスは身に付いたもののようだ。
■「配当、自社株買いではなく賃上げに廻せ」という考え方
その昔の昭和、平成の前半という時代は、企業経営者たちは株主、投資家などほとんど無視していた。決算発表などでも、財務担当役員などが「配当なんてあくまで付け足しですよね」とか本音というか、まったく当たり前の調子で発言していたものだ。
したがって、配当などはほんの微々たるもので、自社株買いなど存在しなかった。「ROE(自己資本利益率)など眼中にない」と発言した重工業の有力経営者もいた。さすがに外資系など大株主から大量に売られて株価が急落。これなど無視してきた株主の反撃であり、外人株主から「株主」という存在を認識させられた事件だった。
おそらく岸田首相の自社株買い見直しめいた発言もそうした「昭和の資本主義」ノスタルジーに近いように思われる。
岸田首相の発言は、配当や自社株買いなどにおカネを廻さず、正規従業員におカネを使えといっているのだと推測される。賃上げの原資は、配当、自社株買いなど株主優遇を減らして、それを従業員に充当しろということなのだろう。岸田首相の目指すところは、いわば「昭和の資本主義」ということにほかならない。
■政策は何事もなかったように変更するが支持率は上昇
賃上げでも経済界の意向を汲んで、ボーナス(賞与・一時金)も賃上げとして認定した。ボーナスを含む「給与支給額」全体を賃金とすることで決着させている。本来の賃上げなら「基本給」をベースにしなければならないが、ボーナスでも上げれば法人税減税などで優遇すると政策を変更した。
「聞く力」ということなのか、政策も何事もなかったように変更する。賃上げは「新しい資本主義」という看板政策の目玉のはずだが、そうこだわっていない模様だ。
それでも岸田首相は新型コロナ感染症への対応では危機管理対応をみせて支持率を上げている。「低姿勢」「丁寧」な対応で安部晋三元首相、菅義偉前首相との違いが評価されている。当たり前のことだが、紙を見ないで正面を向いて話すことも安心感を与えている。案外しっかりしているというか、したたかである。
「新しい資本主義」が昭和に戻るようなことでは、いずれは何を考えているのかということになる。アップデートしないと支持がいずれ剥げることになりかねない。首相公邸のお化けも怖いが、もっと怖いのは国民の支持のほうといえそうである。
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)