「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(3)
2021年12月10日 17:04
*17:04JST 「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(3)
本稿は、「「サブカル業界で実力をつける中国」にみる、日本が進むべき「新たな道筋」とは(喜田一成氏との対談)(2)」の続きである。
<編集後記>
次なる巨大な成長マーケット「メタバース」に日本はどう挑む?
対談でも紹介したとおり、喜田さんとの出会いは、2021年2月の実業之日本社によるスケブの経営の引き継ぎでした。実際に喜田さんにお目にかかると、私が想像していたイメージとは大きく違い、良い意味で期待を裏切られました。
サブカル分野はコミュニケーションが苦手な方が多い印象だったのですが、喜田さんは、非常にロジカルであり、強力なリーダーシップ力と高いコミュニケーション能力をお持ちの稀有な存在です。また、業界や日本を良くしたいという純粋な気持ちが強く、非常に好感の持てる若手起業家です。だからこそ、サブカルやメタバース業界でリーダー的存在として位置づけられているのだと思います。前回の対談の橋本欣典氏と同じ31歳であり、彼らのような若くて才能がある人たちと、その能力を開花させる社会システムが、日本の未来のためには必要でしょう。
この対談シリーズでは、日本の富の創造や競争力向上という観点を主要なテーマとしています。メタバースは、次なる巨大な成長マーケットであり、日本企業は最優先で事業開発に取り組む必要があると考えています。
2020年、人気ラッパーのトラヴィス・スコットによるフォートナイト内でのヴァーチャルコンサート「Astronomical」が、1200万人以上の視聴と20億円以上の売上を記録し、メタバースの大きな可能性を示しました。
暗号資産投資会社最大手のグレイスケールのレポートでも、メタバースは、次世代のデジタル空間であり、社会的な交流やビジネス、インターネット経済全体を変革する可能性を指摘しています。彼らは、メタバース全体の将来的な売上を1兆ドルと考えており、メタ・プラットフォームズ(facebook)のピボット(方針転換)が、他のテックジャイアントや投資家の参入を刺激させると予想しています。
Web2.0と呼ばれる現在のインターネット産業は、双方向で参加型であるものの、中央集権的に管理されています。そのなかで作られるメタバースにおいても、企業が管理する閉鎖的な環境となっています。一方、分散型であるWeb3.0時代のメタバースは、ブロックチェーン技術と暗号資産によりオープンで民主的であるとされています。
Web2.0でのゲームは、消費者が多くの時間と労力を費やしてゲーム内で富を築いても、ゲーム管理者であるプラットフォーマーは、その富をゲーム外の現実社会に移転させないようにしています。一方、Web3.0では、プラットフォーマーが強いていた資本規制がなくなるため、消費者が自由にプラットフォーマー間で富を移転できるようになり、また、現実社会にもその利益を自由に持ち込むことができるようになります。これらは、「Play to Earn」と呼ばれ、クリエイターエコノミーの進化と言えます。Web2.0企業は、このような変化に対応すべく、築き上げた自身のビジネスモデルを自ら破壊して、Web3.0に対応したオープンなエコシステムに昇華させる必要があります。
このようなパラダイムシフトは、既存のプレイヤーの今までの戦略的資産を負債化させるとともに、何も持たないチャレンジャーには、大きな機会を与えます。既存プレイヤーには、今回facebookが「メタ・プラットフォームズ」に社名変更してメタバースへ大きく舵を切ったように、現在の状態に満足せず、果敢でドラスティックなビジネスモデル変革への強い意志と実行が求められます。チャレンジャーには、ベンチャースピリットと、新たな市場での勝ちパターンの理解とその実践が必要でしょう。
野口悠紀雄氏が私との対談で指摘しているように、ここ数十年間、日本は、旧来の製造業モデルの破壊的創造を拒み続け、水平分業型製造業への転換やグローバルなインターネット産業の構築などを怠ったことで、アメリカの後塵を拝してきました。
日本は、1990年代まで築き上げた優位性を、自らの手ですり減らしてきたのです。
これらの競争状態は富の形成に直結しており、パラダイムシフトは富の大逆転を引き起こすのです。井上智洋氏との対談での編集後記で示した通り、ここ数十年の日本の家計資産が横ばいである一方、アメリカは大きく増加しています。
新たに勃興する領域にいる人は巨額の富が形成され、古い領域にいる人の富は相対的に減少しているのです。古い領域にいる多くの人は、自分の富の評価が法定通貨基準で変わらなければ、富の総量の変化に気づかないのです。加えて、昨今のデジタル化によって、デジタル関連の財とサービスのデフレが進行していることもあり、余計に富の評価を見誤るのです。
本来、富は相対的なものであるため、自身の富の総量は、他人のそれとの比較で評価すべきなのです。いま日本に求められていることは、他国との比較で富を増加させること、そのためにも新たな成長分野に果敢にチャレンジすることです。この数十年の失敗を繰り返してはいけないのです。
第3次産業革命から第4次産業革命にシフトしつつある現代において、労働の価値が減少するなか、資本力に加えて知や無形資産が産業競争力の源泉となりました。メタ・プラットフォームズ(facebook)が、巨額の投資によって、世界中のメタバース関連の知や無形資産を吸い寄せ、独占する可能性があります。
コンテンツを多く保有する日本は、今であれば有利なポジショニングをとることができます。メタ・プラットフォームズに日本のコンテンツを吸収される前に、日本は優先的にメタバース事業に取り組むべきでしょう。
今回の喜田一成さんとの対談でも話題が及んだように、日本は過去においてサブカル分野を始めとするコンテンツ関連で、確固たるプレゼンスを築いていましたが、最近になって中国や韓国から猛追を受けています。中国はサブカルやゲームでの開発力、韓国はドラマや音楽でのコンテンツ力と世界的なマーケティング力が突出しています。幸運なことに規制強化での中国のオウンゴールによって、日本には多少の時間的余裕が生まれたため、この間に日本はソフトパワー戦略の再構築に取り組むべきです。
デジタル上の競争では、限界費用ゼロとネットワークの外部性によって、独占か敗北かの2者択一になりました。企業間競争が健全な市場をつくり、複数の企業が生存を許される時代は、すでに過去のモノになっています。日本がメタバースでのプラットフォーマーを志向するなら、今すぐに参入し、メタ・プラットフォームズと同規模の投資を行う必要があります。
しかし、残念ながら、日本のどこを見渡しても、メタ社と同規模の投資を行える財務力と意思を持った会社はないのです。藤野英人氏との対談でも議論に上りましたが、アメリカと日本の企業の時価総額が、あまりにも違いすぎるのです。時価総額は資金調達力を始めとしたパワーの源泉なのです。
残された道は、喜田さんが対談で指摘するように、プラットフォームなどの大きい分野はアメリカ企業に任せて、日本はニッチ分野を獲得していく戦略でしょう。自分たちの力を冷静に見つめつつ、シェアを取れる市場を一つひとつ攻略し、最終的に大きな市場とプラットフォームを支配するという国家戦略を描きたいものです。
戦後の焼け野原から復興した日本は、巨大なアメリカ企業の向こうを張って、グローバルな自動車産業や電機メーカーを築き上げました。過去と比べて現代は戦い方が大きく変わっているものの、日本の総力を結集すれば、戦後復興と同じような復活劇を演じることができるはずです。
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