植物由来の乳酸菌、自己免疫疾患の予防や改善に効果 マウス実験で 広島大ら

2021年11月29日 18:00

 自己免疫疾患の一種である潰瘍性大腸炎やクローン病は、未だ完治させる治療法が見つかっていない難病だ。現在日本には合わせて約30万人の患者がいるとされている。広島大学の研究グループは、イチジクの葉が持つ植物由来の乳酸菌から分泌される物質が、腸の炎症を改善し、さらに炎症を予防する働きを持つことを発見したと発表した。

【こちらも】乳酸菌の摂取でストレスが低減することを発見 北大らの研究

 この研究は、広島大学の杉山政則教授が広島大学病院の菅野啓司准教授と共同で行ない、26 日にオンラインジャーナルMicroorganisms:Impact factor に掲載された。

 本来、免疫は「自分でないもの」に反応し、それを排除するために攻撃する、自分を守るためのシステムだ。その誤作動によって自分自身を攻撃してしまうことで生じる疾患を、自己免疫疾患という。

 潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患は、自己免疫疾患の一種である。若い世代から発症することが多く、仕事や日常生活に大きな影響を与え治療期間も長期間にわたる。自分自身の免疫が腸の細胞を攻撃してしまうことにより炎症を起こす、原因不明の病気だ。

 潰瘍性大腸炎は、直腸から大腸全体にまで炎症が広がることがあり、下痢、血便、腹痛が主な症状だ。現在使用されている治療薬は、炎症性物質の分泌や働きを抑えるもの、免疫の働きを抑えるものなどがある。完治は難しく、症状が緩和した状態(寛解)を維持させていくことを目指す治療になる。

 クローン病は、小腸や大腸に潰瘍を生じる。栄養を吸収するのに大切な小腸に病変が生じるため、体重が減ったり、下痢、腹痛の症状が出ることが特徴だ。

 これまで研究グループは、病気の予防や健康の維持に有益な植物由来の乳酸菌について、研究を行なってきていた。今回、潰瘍性大腸炎を発症させたモデルマウスに、イチジクの葉から得た乳酸菌が作る細胞外多糖体(EPS)を与えた。EPSとは乳酸菌が菌の外に作り出す物質で、例えばヨーグルトのとろみなどをつけているのもEPSである。

 潰瘍性大腸炎モデルマウスは、人の潰瘍性大腸炎と同じように、下痢や血便の症状が生じている。このモデルマウスにイチジクの葉が持つ乳酸菌が作るEPSを与えたところ、下痢と血便が大きく改善した。また炎症の指標となるミエロペルオキシダーゼという物質の活性を調べたところ、EPSによって活性が抑えられていることが判明したという。

 さらに、どのような炎症に関連するサイトカインが関連しているかを調べるため、モデルマウスの大腸組織からmRNAを回収しPCRを行なった。結果、人間の潰瘍性大腸炎に関連していると考えられている、インターロイキン8というサイトカインに相当するマウスのサイトカインMIP-2が、上昇していることが判明。このMIP-2の増加が、EPSによって抑えられていることが確認されたという。

 また、EPSを与えられたモデルマウスでは、インターロイキン10が増加していることも明らかになった。インターロイキン10は、潰瘍性大腸炎やクローン病だけでなく、自己免疫や炎症を抑える働きがある。今後は、多くの自己免疫疾患や炎症性の疾患に関して、治療や予防に応用されることが期待される。

 今回用いられたイチジクの葉から得られた乳酸菌は、パイナップル果汁中で培養すると効率よく増殖し、EPSを放出するという。こうやって得られた発酵液を利用してサプリメントなどにすることで、潰瘍性大腸炎をはじめとする自己免疫疾患の予防や、症状の改善に役立っていくことが期待できるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

関連記事

最新記事