日大を巡る背任事件は、前評判を覆し「竜頭蛇尾」で終わるのか?

2021年11月26日 10:56

 19日、日本大学医学部附属板橋病院を巡る背任事件で起訴・拘留されていた、日大元理事の井ノ口忠男被告(64)と医療法人「錦秀会」前理事長の籔本雅巳被告(61)は、井ノ口被告が4千万円、籔本被告が8千万円の保釈保証金を積んで東京拘置所から保釈された。

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 東京地裁の保釈決定に対して検察側が準抗告で対抗していないため、保釈手続きはスムーズに進んだ。2人に対する保釈条件は「多数の事件関係者と接触しないこと」とされているようだが、遵守させる体制が取られている訳ではない。

 2人は病院の建て替え工事関連で2億2千万円を流出させたとして逮捕、起訴された。その後医療機器の納入でも約2億円の損害を日大に与えたとして再逮捕、追起訴されていた。

 もっとも被害者である筈の日本大学が7日、理事会の決定で「大学が損害を被ったという事実関係が不明のため」、東京地検特捜部に当該背任事件の被害届提出を保留すると発表しているので、現時点では被害者が存在しないか、被害者としての認識がないという奇妙な展開を見せている。

 事件は当初から異例だった。9月8日に突然実施された家宅捜索の対象先に、田中英寿日大理事長の自宅が含まれていたため、東京地検特捜部が理事長の関与を念頭に置いていると推測する向きが少なくなかった。

 田中理事長の自宅では、1億円を越える現金(2億円近いとの報道もある)が発見されたが、理事長の妻は「夫の報酬とちゃんこ屋を営む自分の収入の合計だ」と相当の迫力で捜査員に迫ったようだ。

 9月12日、手際よく日大附属病院の診断書を検察側に提出して特別室に入院した田中理事長は、何を思ったか「俺が逮捕されるようなことになれば、今まで政治家に渡して来た裏金を全部ぶちまける」と不穏な発言をしたと伝えられている。まるで不透明なカネの流れを差配したのは自分だと、自供しているようにも聞こえる。

 ただし、井ノ口被告と籔本被告の供述からも、合計1億円内外の現金が田中理事長に渡っていることが伝えられているが、事件との関わりは頑なに否定されている上に、事件と関連付ける物証も証言も得られなかったようなので、背任事件で田中理事長が立件されることはなさそうだ。

 だが、理事長夫人がまくし立てた「夫婦共同の稼ぎ」説では、東京地検特捜部を納得させられなかったようで、田中理事長は東京地検特捜部と国税当局の連携によって、自宅にあったカネの流れを追及されることになった。日大の広報は「税務申告は適切に行っていると聞いている」としているが、自宅に億単位の現金を置いているような人物であれば、他にもあると考えるのは脱税捜査の常道だ。

 今後銀行等の金融機関を徹底的に調査するだろうから、田中理事長個人に対する税務上の問題が輪郭を見せるまでには、まだ暫くの時間が必要になる。

 相撲を通して現在の地位に上り詰めた田中理事長は、特捜部に土俵際まで追い込まれながら、辛くも「うっちゃり」で勝利した筈が、「物言い」をつけられたような気分だろう。まだまだ長く落ち着かない日々を過ごすことになりそうだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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