室温で動作可能な酸化物系全固体電池を開発 安全性も高く 産総研
2021年11月23日 07:57
安全性の高い酸化物系固体電解質を用いた全固体電池は、次世代電池の有力な候補として注目を集めてきた。だが正負極材料の組み合わせや室温での反応性の低さなどが課題となり、実用的な性能は得られてこなかった。産業技術総合研究所(産総研)の研究グループは22日、酸化物系固体電解質とLi2S、Siを用いた電池系に着目して研究した結果、室温で従来の酸化物系全固体電池よりも大幅に高いエネルギー密度を示すことに成功したと発表した。
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一般に固体電解質の材料には硫化物系と酸化物系があるが、硫化物系は空気中で分解して硫化水素ガスを発生するなど安全面が課題である。そこでより安全な酸化物系固体電解質が注目されてきたが、活物質との接触抵抗が大きく室温で十分な特性が発揮できなかった。
そこで、活物質と固体電解質との接触抵抗を低減するために着目されたのが、メカニカルミリングによる微細化である。一般的なリチウムイオン電池の正負極活物質は、微細化しすぎると充放電性能が悪化してしまう。だが研究グループは、Li2SやSiなど一部の活物質は、メカニカルミリングによってむしろ性能が向上する点に着目した。今回の研究では、より変形性の高い酸化物系固体電解質を使うことで効果的に微細化されるように試みられた。
Li2Sを正極、Siを負極に用いた酸化物系全固体電池は25度のフルセル試験で、一般のリチウムイオン電池に近い面積当たり容量を示したという。また、このフルセルの試作では、従来の酸化物系全固体電池に必要な電極合材の焼結をせず、室温プレスのみで作製が行われている。そのため生産性が高く、安全性も高い酸化物系全固体電池の実現可能性が示されたといえる。
今後の実用化に向けては、さらなる抵抗の低減や充放電サイクル安定性などが課題となってくる。そのため研究グループは、酸化物系固体電解質のイオン伝導率改善や薄膜化などの改善を進めていくとしている。また、産業界のパートナーとも連携して実用化の早期実現に向けた研究加速も目指している。
今回の研究成果は「Electrochemistry」誌のオンライン版に20日付で掲載されている。