10年で半導体売上高を3倍に 日本政府が掲げる、日の丸半導体の強み
2021年11月21日 18:43
コロナ禍とともに、世界中で深刻化している半導体不足。半導体といえば、一般的にはパソコンやスマホの中に使われているものというくらいの認識しかないかもしれないが、自動車や産業機器、家電やインフラ設備など、電気を使って動かすありとあらゆるものの中に搭載されている。それだけに世界中で起こっている半導体不足は文明社会に大きな影響を及ぼしている。中でも、走る半導体ともいわれる最新のEV自動車などは深刻だ。
今回の半導体不足の原因にもコロナ禍が大きくかかわっている。コロナ・パンデミックによって、世界中がインターネットを介したリモートライフに移行し、仕事や学習、交流のためにデジタル機器の需要が急増したこと、さらには自宅時間を有意義に過ごすために最新のデジタル家電を買い求める消費者が増えたことで、商品そのものだけでなく、それを維持、増産するための生産設備などでも、半導体の需要が急増したのだ。
一方、経済産業省は11月15日、半導体戦略の当面の支援策をまとめた「半導体産業基盤緊急強化パッケージ」を示し、 2030年までに日本企業の半導体売上高を2020年比で約3倍となる約13兆円まで引き上げるという目標を掲げた。
経済安全保障の観点からみても、先端半導体工場の国内立地の重要性は増している。世界最大の専業半導体ファンドリーである台湾のTSMCがソニーグループと共同で熊本県に建設を予定している新工場など、先端半導体工場の誘致や支援をはじめ、国内既存工場の施設改修などにも国が積極的に支援を実施することで、各分野での強化を図り、低下し続けている日の丸半導体の世界シェアを取り戻したい考えだ。
世界に数多ある半導体メーカー同士が、性能や品質、価格、供給体制など、あらゆる土俵でしのぎを削るなか、半導体ユーザーの開発をサポートする技術やシステムも大きく進化し始めている。
例えば、SiCパワー半導体製品などで世界的にもシェアを広げているローム株式会社は、自動車や産業機器などの電子回路設計者・システム設計者に向けて、無償の電子回路シミュレーションツール「ROHM Solution Simulator」を2020年に同社の公式Webサイトで公開している。ロームが提供するSiCデバイスなどのパワー半導体と、駆動や電源用途などの各種IC、およびシャント抵抗器などの受動部品を、ユーザーの実環境に近いソリューション回路で簡単かつ高精度に一括検証できるもので、アプリケーション開発工数削減に大きく貢献するものだ。
無償ツールとは思えない応用力と精度の高さで好評を博しているなか、回路動作と一緒に温度変化もシミュレーションしたいという要望に応え、11月4日には新たに熱解析機能も追加された。パワー半導体とICおよび受動部品を組み合わせたソリューション回路に対し、オンライン上で電気・熱連成解析できる、業界唯一の機能だ。IGBTとシャント抵抗器を搭載したPTC Heater(内燃機関を持たない電気自動車専用のヒーター)をはじめ、DC/DCコンバータICやLEDドライバICなど、熱が課題となりやすいアプリケーション、デバイスのソリューション回路に対して実装しており、アプリケーション動作時の半導体チップ温度はもちろん、端子温度や基板上部品の熱干渉まで、従来1日かかっていた熱解析シミュレーションを10分以内で実行することができるという。
最終製品ももちろん大事だが、日本のものづくりの強みは、こういった製造や開発をサポートする仕組みの優秀さにもあるのではないだろうか。半導体を使った製品には、便利なだけでなく、人の生命や健康に密接にかかわるものも多い。売上高はもちろん、高品質な商品や丁寧な開発サポートで信頼できるメーカーとしても、日本企業の存在感を回復してもらいたいものだ。(編集担当:藤原伊織)