世界的な物価上昇、原因はリーマンショック以降の量的緩和策に
2021年11月19日 08:54
11月12日に、アメリカの10月度消費者物価指数が公表された。その結果は31年ぶりの高水準。前年同月比で6.2%の上昇となる。その要因としては、ワクチン接種を契機とした景気回復による需要拡大と、エネルギーの供給難による燃料費の高騰と働き手不足で、需要と供給のバランスが大幅に乖離したことだ。
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コロナ禍におけるアメリカの消費者物価指数については、2021年2月時点まで1.2~1.4%と低水準で推移している。ワクチン接種が始まる前までは、人々の消費活動も抑えられ、需要の回復は待ったがかけられてきた。そして、ワクチン接種率が世界的に高まる中、世界経済は加速度的に動きを速め、世界的な物価高騰が波及する。おかげで、コロナ禍で苦しめられてきた貧困層が、さらなる困難を強いられるとの懸念もある。
そこで気になるのが、この物価上昇局面がいつまで続くのかだ。その答えを探るべく、過去10年間のアメリカ消費者物価指数の粋を確認しよう。
世界を巻き込んだ金融ショック・リーマンショックによって、アメリカの物価は一次的に3%を超える高騰場面を経験した。ただそれ以降は、1~2%と低いレンジで穏やかに推移する。ただ3%を超えていたのも半年程度の期間であり、今回のように激しい高騰とはならなかったことや、長期化もしなかったことを留意したい。
となると、今回も一次的な突風だと期待したいところだが、リーマンショックは単にギャンブル的な金融ゲームの果ての破綻劇。しかし今回は、実体経済がコロナによるパンデミックにより、経済活動がフリーズしたことに端を発する。
つまり、今世界中で発生している物価上昇は、コロナ前の社会に戻るまでは解決しないといえる。いや、たとえ社会が通常に戻ったとしても、実質的な物価高は維持されるリスクが高い。
それは、リーマンショック以降に世界中の中央銀行が取り組んできた量的緩和があるからだ。ここで、米FRBと日銀が実施してきた量的緩和によるマネタリーベースの推移を確認したい。データは2013年からとなるが、それでも現状分析には十分である。下記の表は各政府の公表値によるもので、アメリカのマネタリーベースは当時レートの円換算とする。
・2013年1月:日銀:131.9兆円(+10.89%) FRB:274.2兆円(+3.93%) ドル円:89.20
・2020年1月:日銀:514.1(+2.87%) FRB:344.3(+2.86%) ドル円:109.31
・2020年6月:日銀:544.0(+6.05%) FRB:500.2(+52.74%) ドル円:107.62
・2021年9月:日銀:655.8(+11.68%) FRB:638.9(+30.91%) ドル円:110.17
2013年から2020年1月(コロナショック発生まで)のマネタリーベースだが、日銀はリーマンショック以降、ハイペースで量的緩和を促進してきたことがわかる。その7年間で、流通量が4倍近くに膨れ上がっている。一方FRBのペースはかなり穏やかだ。
そしてコロナショックが発生し、トランプ元大統領の緊急支援策によって、数カ月間で150兆円にも相当する現金が社会経済へ投入された。さらに2021年9月までに130兆円相当のドルを追加している。一方、日銀もコロナショック以降の2年間で150兆円のベースアップした。
リーマンショック以降、これほどの規模のお金が社会経済へ投入されたことに問題がある。なぜなら、ほとんどが金融市場に注ぎ込まれている実態があるからだ。リーマンショックで暴落した金融市場に大量の資金投入をしたおかげで、それ以降のマーケットは全て上昇トレンドを維持している。
コロナ禍で落ち込んだ消費も、ワクチン接種というファンダメンタルだけを頼りに、異常なほど先物市場に資金流入がなされている現実を無視することはできない。
長い説明になったが、今の世界的物価上昇をもたらした根本的原因は、量的緩和による無尽蔵の資金が金融マーケットに流れ込んだことに尽きる。確かに、現状のファンダメンタルは物価上昇を肯定するに値する。だが、急激な高騰と今後も継続するだろう長期的高騰の原因は、単に金余りによるマネーゲームの悪影響に他ならないのだ。
さて、資産運用におけるポイントだが、当面は株式や先物、その他の金融商品は右肩上がりを維持するだろう。適宜、ポジション調整の下落局面を挟むが、ロングポジションでポートフォリオをキープするようにおすすめしたい。(記事:TO・記事一覧を見る)