HS証券がトルコリラ建ゼロクーポン債 情勢不安のトルコリラ保有メリットは?

2021年11月3日 07:27

 10月25日に、HS証券が『トルコリラ建ゼロクーポン債』をリリースした。売出期間は11月22日までの1カ月間。Webサイトでは、『5年間で投資資金が2.3倍に膨れ上がる可能性』をキャッチコピーとした販売戦略を展開している。

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 5年で2.3倍、つまり年46%利回りの根拠を、現状のトルコ経済から検証するとしよう。

 まず、確認しておくべきはトルコリラの為替相場だ。本来ならドル・トルコリラで見るのが正攻法だが、データが複雑化するために簡単に円・トルコリラの形で確認していく。直近のトルコリラの値動きを日足チャートで見る限り、9月以降は一貫した下落相場を展開している。9月1日の13.327円/リラをピークに、10月25日の11.463円/リラまで1.9円以上も急落している。下落率は14%と、看過できない下げ率だ。

 しかも、2020年11月に付けた最安値12.012円/リラの大底を割り込む下落相場を形成し、さらなる底値を探る展開にもなった。

 ファンダメンタルズを見ると、10月21日に行なわれたトルコ中央銀行の金融政策決定会合によるダメージがある。それまで幾度も利下げを据え置いてきたトルコ中央銀行は、エルドアン大統領の強要を受け、9月に行なわれた前回の会合で主要政策金利を年18%へ下げた。それまで回復トレンドへ転じ始めていたリラ相場を、再び下落相場へと落としてしまった。

 21日の会合では、年18%からさらに2%ダウンの年16%へと金利を下げると発表。この大幅な金利圧縮政策によって、リラ相場は史上最安値を更新し、さらなる不安を広げることなる。

 また、10月24日に米独仏など10大使を国外撤去させるという警告を発し、全世界で政治的な物議を醸したことも大きい。人権活動家であるオスマン・カバラ氏を擁護するこれら10大使に対する厳しい制裁措置であるが、当然アメリカをはじめとする対象国は黙っていない。政治上の不安要因が、さらにトルコリラの価値を低める結果にもなった。

 さて、ここまでの流れだと、とてもトルコリラを保有するメリットはなさそうだ。だがHS証券は、あえてこの局面でスワップポイント狙いのトルコリラ建のゼロクーポン債をリリースしてきた。この理由を補足しておこう。

 まず、チャートを月足で見ていただきたい。直近の5年間の推移を見る限り、相場の流れは鍋の底に達した感じをあたえるだろう。ここから割れても、『せいぜい10円/リラ程度』ではないかとの読みが立つ。リラ安が落ち着くのであれば、リラ保有に対する不安は回避されよう。

 そして、トルコ経済は決して成長性で不安がある国ではない。以前にも述べたが、トルコのGDPは2017年までの過去20年ほどで5倍にも膨らんでいる。この成長率は世界19位の好成績だ。日本が低成長を記録する現在、トルコリラ・円の相対価値の差は歴然である。

 HS証券のゼロクーポン債については、あくまでもスワップポイントによる利ザヤ取りなので、日本経済の好調・不調は関係ない。日銀がマイナス金利政策を継続する間は、金利差で大きなスワップポイントは期待できるだろう。

 今後も、エルドアン大統領は金利引き下げに熱心な政策を展開するだろう。だが、当面は円とリラとの金利差は大きな開きがあり、HS証券の強気のアピールもうなずけるのではないか。ただ、5年で資金が2倍になるかどうかは不安が残るところだ。

 なお、個人的にトルコリラを長期保有するポートフォリオも魅力がある。金利差10%が生むスワップポイントは大きな破壊力だ。通貨下落の勢いが落ちていることを考えれば、投資資金の一部をリラで運用するメリットは検討するに値するかも知れない。(記事:TO・記事一覧を見る

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