CO2排出、早期削減した場合の土地や食料システムへの影響は 京大らが分析

2021年10月11日 16:43

 京都大学、立命館大学などは8日、大規模なCO2の除去に頼らず、早期にCO2排出の削減をおこなうことで、パリ協定における地球温暖化対策の目標を実現した場合の、土地利用・食料システムへの影響を明らかにしたと発表した。研究グループによればこの場合でも、土地利用・食料システムは、今世紀後半の劇的な影響は避けることができるものの、今世紀中頃の影響は避けられず、食糧安全保障の観点からの対策が必要になるとしている。

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■パリ協定の目標を実現するためのシナリオ

 2015年に取り決められたパリ協定では、地球温暖化による気温の上昇を、産業革命前と比べて2度より充分低く抑え、1.5度に抑える努力をするものとされている。

 ただこれまで想定されてきた多くのシナリオは、今世紀末の平均温度上昇のみに着目されており、今世紀中にどの様に気温変化が起こるかは、想定されていなかった。

 そのため、パリ協定の目標を達成するためには、今世紀前半ではあまりCO2の排出削減をおこなわず、今世紀後半に急激なCO2の削減をおこなうシナリオもありうる。

 この場合には、CO2回収貯留付きバイオエネルギー(BECCS)や植林といったCO2回収技術が考えられるが、いずれにしても、土地利用・食料システムへの甚大な影響は避けられない。

 なお、BECCSとは、バイオマスとCO2回収・貯留技術を組み合わせたもので、バイオマスを燃焼させたときに発生するCO2を回収・貯留するものだ。バイオマスは、カーボンニュートラルのため、これによって実質的に大気中のCO2を減らすことができる。

■CO2を早期に削減した場合のシナリオ

 そこで研究グループは、炭素税などによって早期にCO2排出が削減されたとして、今世紀末の大規模なCO2除去に依存しない場合の温暖化対策による、土地利用・食料システムへの影響を検討。アジア太平洋統合評価モデルなど7つの統合評価モデルを使って調査した。

 その結果、最初のシナリオに比べ、長期的(2090年頃)には、バイオマス生産などのためのエネルギー用農地が7500万ヘクタール減少し、代わりに、食用農地と牧草地がそれぞれ1100万ヘクタール、1600万ヘクタール増加。飢餓リスク人口は480万人減少することが解った。

 しかし最初のシナリオに比べ、中期的(2050年頃)には、エネルギー用農地が1500万ヘクタール増加し、代わりに、食用農地と牧草地がそれぞれ1100万ヘクタール、3500万ヘクタール減少。飢餓リスク人口が4200万人増加することが解った。

 研究グループによれば、早期かつ迅速なCO2排出削減によって、今世紀後半の劇的な土地利用の変化は避けられるものの、その過程においては、食糧安全保障の観点からその影響を緩和するための対策が必要になるだろうとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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