気象予測の精度、衛星からの重い水分子の観測活かし向上 東大ら
2021年9月19日 07:51
身近な水には、ごく僅かな割合で水素や酸素の重い同位体原子を含む「重い水分子」が必ず含まれている。重い水分子は蒸発や凝結などの相変化でその割合が変化するため、地球上の水の循環過程を読み解く上で重要な指標となる可能性が示唆されてきた。
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日本気象協会と東京大学の研究グループは、世界で初めて重い水分子の割合の実測値を気象予測モデルに組み込むことで、予測精度の改善を試みた。その結果、対流圏中層において風速や比湿、温度の予測精度が10%以上改善されることが判明したと、15日に発表した。
重い同位体原子を含む水分子は、蒸発の際には液体側に、凝結の際には固体側に多く分けられるということが知られている。そのため、蒸発や凝結のような相変化を繰り返す地球上の水の循環では、重い水分子の割合が指標となる可能性は古くから指摘されてきた。だが重い水分子の割合の変化は一定ではないため、現地での実測値の観測を気象モデルに組み込んで検証することが望まれていた。
そこで研究グループは、欧州の人工衛星に搭載された分光センサーによる実測データをモデルに組み込み、シミュレーションを実施。気象モデルには、同じく研究グループが開発してきた全球水同位体大気循環モデル「IsoGSM」が用いられた。
「データ同化」と呼ばれる手法で、IsoGSMに重い水分子の割合の実測値データを組み込むことで、観測精度が向上するかを検証。その結果、データ同化しなかった場合と比較して、対流圏中層における風速や比湿、温度が10%以上正確に観測されることが判明した。
今回の研究成果は、過去や将来の気候変動の解明において大きなヒントとなる可能性がある。特に、過去2000年の人間活動に伴う気温上昇を特定するためにも、水の同位体の動きが鍵となる。また天気予報の精度向上なども期待されている。
研究グループは今後、より観測データを増やしたりモデルの性能を高めることで、さらに予測性能の向上を進めていくことが必要と述べている。
今回の研究成果は14日付の「Scientific Reports」誌オンライン版に掲載されている。