安全で効率的な細胞用電動ナノ注射器を開発 細胞治療・再生医療に応用 早大ら
2021年9月12日 07:12
早稲田大学、理化学研究所などは10日、細胞内に物質を注入するための細胞用電動ナノ注射器を開発したと発表した。研究グループによれば、この注射器はこれまでになく安全、効率的で、細胞治療や再生医療への応用が期待できるという。
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■細胞治療とは
細胞治療とは、患者から採集した患者自身の細胞に、特定の機能性を持たせ増殖させた後に、再び患者の体内に戻すことで、病気の治療を図るものだ。
例えば、日本でも白血病の治療法としてCAR-T細胞療法などが保険適用されている。CAR-T細胞療法では、患者から採集した患者自身の免疫細胞(T細胞)に、CARと呼ばれる遺伝子を組み込み、がん細胞に対する攻撃力を強化した後に増殖させ、再び患者の体内に戻す。
しかし、このように細胞に特定の機能性を持たせるためには、さまざまな物質を細胞内に注入する必要がある。従来の方法では時間がかかるうえに、注入できる物質に制限があったり(化学・生物方法)、操作が複雑なうえに細胞が死んでしまうことが多い(物理的方法)などの問題点があった。
今回、研究グループが開発した細胞用電動ナノ注射器はこれらの問題点を解決するものだ。
■安全、効率的に任意の物質を細胞内に注入
まず研究グループは、導電性高分子で被覆された金属製のナノチューブを開発した。この「針」を細胞に刺し微弱な電圧をかけると、針の内部に流れが生じ、3倍以上の効率で物質が細胞内に注入される。
研究グループによると、このように針を導電性高分子で被覆したことで、安全性が向上し、死ぬ細胞の数が大幅に減ったという。この針を並べ、シート状にすることで、さらに効率の向上を図った。
この方法では、細胞に針を刺し、直接物質を細胞内に注入するため、任意の物質を細胞内に注入できるという。
研究グループによれば、カルセイン低分子においては、導入効率99%、細胞生存率96.8%を達成し、GFPタンパク質においても、導入効率84%、細胞生存率98.5%を達成したという。
今後研究グループでは、細胞治療や再生医療の現場での利用を見据えて本技術をさらに改良していきたいとしている。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)