ソフトバンクGを巻き込む、アリババの株価下落とセクハラ企業リスク!

2021年9月5日 07:50

 ソフトバンクグループ(SBG)が信者のような個人投資家を抱えている最大のポイントが、アリババであることに異論を持つ人は少ないだろう。

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 創業間もないアリババに、二つ返事で20億円を出資したことが、孫正義会長兼社長(孫会長)の神話のような目利き伝説を生み出した。本年度第1四半期末現在でアリババの株式は1100憶ドル(約12兆円)と、純資産の47%を占める。

 孫会長は日頃から純利益を、歯牙にもかけていないと公言している。その代わり大事にしているのが、「NAV(ナブ)」だ。NAVは、Net Asset Valueを略したもので、純資産価値と邦訳される。NAVは保有株式の時価評価額から純負債を控除して算出される。

 21年3月期のSBGのNAVは26.1兆円を誇り、その時の純利益は約5兆円にも上る。そんな絶頂とも言える時期に、孫会長は「今回は、『たまたま』が重なった。あまり胸を張って、言える状況ではない」ではないと謙遜とも取れる表現をしていたが、従来純利益が眼中にないと口にしている本人が、相好を崩すわけにはいかないという強がりにも見える。

 21年3月31日に220香港ドル(HKD)だったアリババの株価は、現在160HKD前後で推移している。わずか5カ月ほどの間に30%近いダンピングに至ったのは、20年11月5日に予定されていたアント・フィナンシャルのIPO(新規株式公開)が直前に延期されたことが尾を引いているからだ。

 当局から明確な説明は全くないが、創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が金融監督当局や政府要人が出席した上海の会合で、当局や銀行を痛烈に批判したためにIPOが突然延期され、その後ジャック・マー氏の動静が殆ど伝えられなくなった。ジャック・マーが社会から隔絶される日々が増えるのに並行して、アリババに対する締め付けが強まり、同社の凋落が進行していると言えるだろう。

 SBGのNAV引き上げに大きな役割を果たしながら、現在は株価の底が見えない窮状にあるアリババで発生したセクハラとアルハラが注目を集めている。

 7月下旬に上司と宿泊を伴う出張を命じられた女性が、酒席で飲酒を強要され、酩酊状態でのセクハラ被害を担当部署に告発。だがもみ消されそうになったため上級部署への告発と矛先を向けたものの、納得できるような事態に至らなかった。最終的には社外に拡散することで会長兼CEOのダニエル・チャン(張勇)の知るところとなり、加害上司の永久追放(?)やアリババグループの最高人事責任者(CHO)の処分に至ったものの、社内の対応が遅きに失した感じは否めない。

 取引先の加害男性や、女性が宿泊した部屋の合鍵を渡したホテルの担当者などに対しては、警察が捜査中だと伝えられている。

 ジャック・マー氏の舌禍事件が伝えられる前には、驚異的な成長で注目を集めていたアリババにとって、正に内憂外患そのものの危機的な状況だ。

 孫正義会長の神通力の源だったアリババの凋落が、SBGに及ぼす影響は計り知れない。アリババの膨大な評価益という厚化粧がはげて素顔になったSBGに、投資家が示す反応が興味深い。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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