老化細胞が慢性炎症引き起こす仕組を解明 がんの予防にも期待 がん研究会ら
2021年8月26日 16:43
がん研究会、科学技術振興機構などは24日、老化細胞が慢性的な炎症を引き起こす仕組みを解明したと発表した。研究グループによれば、サテライト II RNAと呼ばれる非翻訳RNAによって、炎症に関する遺伝子のスイッチがONになり、慢性的な炎症が引き起こされるという。
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■老化細胞は慢性的な炎症を引き起こす
細胞は遺伝子が傷つくと、その修復を試みる。しかし修復ができない場合には、がん化を防ぐために、アポトーシス(プログラム細胞死)したり、分裂を停止したりする。こうして、分裂を停止した細胞を老化細胞という。
老化細胞は慢性的な炎症を引き起こし、がんや動脈硬化、白内障、肺線維症などといった加齢性疾患に深く関係していると考えられている。
だがこれまで、老化細胞がこのような慢性的な炎症を引き起こす仕組みについてはよく解っていなかった。
■老化細胞が炎症を引き起こす仕組み
そこで研究グループは、老化細胞で観察される染色体構造の異常に着目して研究を進めた。
その結果、老化細胞で顕著に高発現していることが確認された非翻訳RNAの1種である「サテライト II RNA」が、炎症を引き起こすSASP遺伝子が存在する領域における染色体構造の異常を引き起こし、SASP遺伝子の発現を誘導することが判明。そのため老化細胞からの炎症性たんぱく質の分泌が亢進され、慢性的な炎症が引き起こされる。なお、非翻訳RNAとはたんぱく質の合成に関わらない特殊なRNAのことをいう。
また研究グループでは、サテライトII RNAは、老化細胞で分泌が亢進しているエクソソームを介して周囲の細胞に取り込まれ、染色体構造の異常を引き起こし、SASP遺伝子の発現を誘導することも確認した。なおエクソソームとは、直径50~150nmほどの小胞で、その中には、DNAの断片やマイクロRNAなどが含まれている。
さらに、大腸がん患者の手術検体を使った分析から、サテライト II RNAが高発現したがん周辺の間質細胞でも、炎症性たんぱく質やエクソソームの分泌が亢進しており、これらが発がんを促している可能性があるという。そのため研究グループでは、今回の研究成果が、今後新しい視点からのがんの予防法・治療法の開発につながるのではないかと期待している。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)