自動車メーカー従業員の保有車はどうする

2021年8月13日 08:30

 各自動車メーカーは、従業員の「愛社精神」に期待し、自社ブランドの車に従業員が乗ることを「期待」している。自社で使用する「業務用車両」も、自社生産車に該当車が無ければ、資本関係があるグループ企業の製品を使う。

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●OEM全盛時代

 OEM(original equipment manufacturer)は、他社ブランドの製品を製造することである。日本語では「相手先(委託者)ブランド名製造」とか、「納入先(委託者)商標による受託製造」等と表現される。

 一時期の国内自動車メーカーの製品ラインナップには、OEM生産の車両が入り乱れ、「芸能人相関図」と揶揄される様な状況であった。

 現在は解消されたり、同じブランド名で以前とは別のメーカーに生産委託しているケースもあるが、幾つかの例を見てみよう。

 現在のマツダの軽自動車は、全てスズキ製だ。軽自動車の生産を止めたスバルが、現在販売している軽自動車は、業務提携しているダイハツから供給されるOEMモデルだ。日産の軽は三菱の軽と同じだ。

 以前、マツダ製ボンゴは、日産・バネット、三菱・デリカとしても販売されていた。このカウンターパートとして、日産・ADバンは、マツダ・ファミリアバンとして販売されていた。

 マツダとトヨタの関係が深まったので、現在のマツダ・ファミリアバンは、トヨタ・プロボックスだ。

 ボンゴはマツダが生産を終了して、現在のボンゴはトヨタ・タウンエース、ボンゴブローニィはトヨタ・ハイエースと中身は同じ。

 いすゞエルフは、マツダ・タイタンとしてOEM供給されている。トヨタGR86とスバルBRSは兄弟車というか双子車だ。他にもいろいろあるが、以下省略としたい。

●自動車メーカーの社員は原則として自社製品

 自動車メーカーの社員は、原則として自銘柄の車に乗るのが当たり前だ。

 実験研究部門等の仕事の関係で、開発担当する車種の「ライバル銘柄車を普段使いしてモニタリングする」様な、特別な事情が無い限り、他銘柄に乗ることは考えられない。

 関連企業の担当者が、社用車で取引先である自動車メーカーを訪問する際は、当然その銘柄の車で行くのが通例だ。構内乗り入れだけでも、シビアな対応をするメーカーも珍しく無かった。

 昔、H商会のK氏が三菱自動車の技術担当役員から、来社して技術相談に乗って欲しいと要請された。K氏は大のRE車ファンで、個人保有のRE車に乗って訪問した。

 ところが、入門手続きをする際に、他の三菱車はすんなり入門するのに、守衛所で車検証記載項目の詳細を書かされて、「次回代替え購入予定車名」等々まで問われたそうだ。

 K氏は頭にきて「御社の○○氏から来訪依頼を受けて来たが、こんな対応をされるのは心外だからと、怒って帰ったと伝えろ!」と帰り支度をしたところ、報告を受けた担当役員が守衛所まで飛んで来て詫びるので、何とか機嫌を直して技術相談に乗って来たそうだ。

●マツダはいろんな車に乗れた

 一時期、マツダは経営不振からフォード傘下の企業となった。このタイミングには、身分不相応な5チャンネル体制を展開している。

 マツダの展開する5つのチャンネルで、「オートラマ」はフォードブランド、「ユーノス」ではシトロエンも、「オートザム」ではランチア、アウトビアンキも販売していた。

 フォードはジャガー、アストンマーチンやボルボ、ランドローバーも傘下に収めた時期がある。

 日本国内で展開するチャンネルでの扱い車種である外車だけでもフォード、シトロエン、ランチア、アウトビアンキがある。

 単身赴任先の独身寮では、フォード傘下の車はOKで、流石にアストンマーチンやジャガーは無かったが、フォードもシトロエンもランチアもいた。

 社宅や独身寮の駐車場を使用するには、車検証コピーを提出する必要があるので、「スズキブランドの軽」は他銘柄でNGだが、「スズキ製マツダブランドの軽」は勿論OKだった。

●季節工募集の時代

 1970年代、自動車産業が拡大する時期には、「季節工」といって、生産ラインに従事する臨時工の採用が盛んであった。

 採用条件等に関する同業他社との情報交換で、大阪支社からは、「ダイハツ・本社」と「ホンダ・鈴鹿」に訪問したが、ホンダでは応募してくる若い人に対し、「原則他銘柄は禁止しているが、RE車だけはダメだというと辞退されるので許容せざるを得ない」との話を聞いた。

 自銘柄に拘ると、人員確保が出来ないから、苦渋の判断だったそうだ。

●ホンダの従業員は何に乗るのか?

 ホンダが全車EV車にすると、従業員は何に乗るのだろうか?

 ロールスロイスやフェラーリの従業員が全員自銘柄に乗っている筈は無い。しかし、従来は自銘柄でカバーできていた筈が、EV車限定となると、どうするのか。

 社宅団地の駐車スペース全てに、充電可能な設備でも置かない限り、EV車に全て置き換わる筈は無い。

 自社生産のガソリンエンジン車を大事に乗り続け、その車が使用不能となったら、程度の良い中古車を探して乗るのか。

 他人事ながら、気になる事案である。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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