【小倉正男の経済コラム】「説明責任」=ガバナンスを果たさない日本の政治

2021年8月11日 07:43

■金メダルの高揚感があっても支持率は低下

 「東京2020」、オリンピック・パラリンピックということだが、オリンピックが終わった。

 その途端に朝日新聞社の世論調査が発表された。同調査では、菅義偉内閣の支持率は28%と昨年9月の発足以来はじめて30%を割り込んだということである。

 新型コロナ感染は増えるばかりであり、酸素投与が必要な患者も入院がままならない状態にあるのが現実だ。相当に危機的な状態である。

 ところが、「説明責任」が果たされていない。菅首相が「重症患者以外は自宅療養」と唐突に方針を表明したわけだが、曖昧な結論だけ語ったにすぎない。どうしてそのような結論なのかといった説明はまったくない。これでは危機感など伝わるわけがない。

 「説明責任」を果たすのが基本だが、スピーチも原稿棒読みどころか、原稿読み飛ばしと、こちらも基本はないがしろである。金メダルの高揚感があっても支持率は28%というのだから、普通にいえば総裁選、総選挙のメドは立たないのではないか。

■古代からの保守層を怒らせる混迷

 旧聞というかオリンピック前の話――、西村康稔・経済再生相が発表した“酒類提供停止”に応じない飲食店対策のふたつの案が相次いで撤回となった。ふたつの飲食店対策というのは、「取引金融機関から働きかけてもらう」、「酒類販売業者に販売取引を止めるように要請する」だが、いずれも取り下げられた。

 これらも基本を逸脱するものだった。酒類販売業者というものは、もともと酒造、米販売と同根であり、戦前でいえば「地主」階級をルーツにしているケースが多い。保守の集票マシーンであり、政府・自民党としては昔からお世話になってきている圧力団体だ。

 お酒は税金(酒税)との関係が深い。奈良朝あたりから、税金を納めるから新規参入(実体は新規参入拒否権)の判断を業界に持たせろという「座」が形成されてきた。いまも酒販業者が免許制であることも、酒類業界の既得権を保護してのものである。

 古代からの保守層である酒販業者を怒らせているのだから、混迷の極みというしかない。新型コロナ禍を長引かせるお粗末ぶりで飲食店に「時短」を迫るしかないのだから、酒販業者も酷く呆れているわけである。  

■経済界は「説明責任」=ガバナンスを強化

 経済界では、自主的に「指名委員会」「報酬委員会」などガバナンスを強化する企業が、数が多いとはいえないが着実に増加している。「委員会設置会社」と呼ばれている。

 「指名委員会」「報酬委員会」は、経営者OBなどの独立(インデペンデント)した社外役員で構成され、企業経営をチェックする仕組みである。現実には、知り合いの経営者OBなどに就任を依頼することが多いのだが、それでも曖昧な経営を行えば「指名委員会」「報酬委員会」で否決される可能性がある。

 最近、「指名委員会」「報酬委員会」を設置・導入したある企業経営者は、「経営では説明責任が重要だ。きちんと説明できないとインデペンデントな社外役員に賛同は得られない」と語っている。

 つまりは経営の「透明化」=「見える化」で、経営が「説明責任」を果たすことで株主などに情報を「共有化」するのが狙いだ。

 政治にこそ「委員会設置」=ガバナンスが必要である。結局のところ、政治のほうは選挙しかチェックする方法がない。総裁選、総選挙の前に、当面は大混戦の横浜市長選挙あたりが前哨戦になる。はたしてこのあたりの行方は?

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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