ソフトバンクGの値動きに現れた、経営者と投資家に生じた思惑のズレ!

2021年8月1日 16:50

 3月12日に直近最高値の終値1万635円を記録したソフトバンクグループ(SBG)の株価は、その後急速な下げに転じて、4カ月後の7月28日の終値は6745円となった。下げ幅が実に3890円だから、約30%の値下がりである。

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 SBG株価の値動きは独特だ。一般には決算期に公表される業績が予想を上回っていれば「買い」が膨らんで株価は上昇し、期待外れの内容だった場合には「売り」が先行して株価は下がる。決算期の間に特異な情報があれば上昇・下落の材料になる。誰しも勝ち馬には乗りたいし、ババは引きたくないから、多少変則的な動きを見せたとしても概ね想定の範囲を大きく超えることはない。

 SBGは20年3月期に9615億円という巨額の純損失を計上して、一時株価は4000円を割り込む状態に陥った。ここで孫正義会長兼社長が打ち出した起死回生策が、2兆5000億円に上る自社株買いだ。日々上昇を続けるかのような値動きを見せて、直近底値の2倍以上となる1万635円に到達した。

 反落に転じたと感じられる動きは、決算説明会の前日から始まった。5月12日に行われた決算説明会で、自社株買いが予定通り終了したことと、追加の自社株買いは白紙であるとの説明が行われた。何と、5月11日に662円、12日に328円と値下がりし13日には713円の下げとなった。3日間で合計1703円値を下げ、13日の終値は8467円だった。

 複雑な背景があるにしても、部外者に見えるのは自社株買いが株価を引き上げて、自社株買いの終了と共に「売りが膨らんだ」ということだ。金融情報の配信大手であるブルームバーグの分析によると、「自社株買いの追加が発表されなかったゆえの失望売り」だそうだ。

 国内企業では過去最高となる4兆9879億円もの純利益を発表した12日を挟む3日間に、ピークとなる売りが行われ、以後もだらだらと値を下げ続けている。

 7月29日には終値で275円の値上がりとなり、反転の兆しも感じられるが、孫正義氏が拘っている純資産価値(保有株式の評価額から純債務を控除する、NAV:Net Asset Value)に基く計算では、4月1日現在の理論的な適正価格は約1万5000円だから、29日の終値(7020円)は理論価格の半値以下ということになる。30日は再び反落し、183円安の6837円で終了した。

 こうした現状の重要な背景には中国政府によって、有力企業への統制が強化されていることがある。SBGのNAVに多大な影響を及ぼすソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の投資先には中国企業も少なくない。

 SBGの命綱とも言えるアリババ集団は言うに及ばず、配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)、トラック配車アプリの満幇集団(フルトラック・アライアンス)等の最近の大幅な値下がりが、SBGへの視線を厳しくさせていることは否めない。

 超ド級の純利益を計上したばかりの企業の株価が、総帥が提唱する理論価格の半値以下という構図は明らかにマトモでない。NAVでSBGを評価しようとする投資家が少数派に陥っているのであれば、孫氏が決算の都度力説してきたSBGの理念が、投資家の支持を受けない、独りよがりな説と受け止められても止むを得まい。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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