育児は最も難易度の高いマネジメント!? 育休はパパと部下を成長させる貴重な機会(連載第6回)
2021年7月30日 08:48
(連載第6回)日本ではまだ数パーセントしかいない、男性の育休取得者。でも、いま確実に育休をとる男性が増えています。なぜでしょうか? 本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』から、パパたちが育休と向き合うことでどんなことを考え、感じ、乗り越えてきたのか、実際のSTORYとあわせてお伝えします。本連載は7回を予定しています。ご興味いただけた方は記事最後に紹介している書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?』もぜひご覧ください。
本連載は、書籍『なぜパパは10日間の育休が取れないのか?−家族も、自分も、会社も、みんなが幸せになる育休の取り方・過ごし方・戻り方−』(2021年4月発行/著者:成川 献太、パパ育休2.0プロジェクトメンバー)の一部を、許可を得て抜粋・再編集し収録しています。
部下を持つパパの復職後、職場に起きたプラスの変化とは
育休から復帰後、職場や部下、チームのメンバーにどのような変化が起こっているのかについては、多くのパパが気になるところでした。
私のように部下がいない立場のパパでも、育休の取得には迷いや不安がありました。ましてや部下やチームをマネイジメントする立場のパパならなおさら、メンバーを残して育休を取得することに対して葛藤があったようです。
「自分がいなくてもチームが回るだろうか」
「育休を取ることを伝えたら、チームのメンバーはどう思うだろうか」
「復帰後、チームのみんなとうまくやっていけるのだろうか」
上司にどうやって育休の取得を切り出そうかという悩みに加えて、自分が育休を取ることによって部下に与える影響も考える必要があったようです。
そんな「部下・チームメンバーとの関係」に向き合ったパパのSTORYです。
【STORY】部下を残して取得した育休。そこには大きく成長したチームの姿が
このSTORYを話してくれた方
・育休パパ 井上誠也さん
・職業 金融機関のバックオフィス
・家族構成(育休取得時) 妻(団体職員)・長女(3歳)・次女(0カ月)
・育休歴 長女出産直後に1カ月、次女出産直後に1カ月、次女1歳のときに3カ月弱(パパママ育休プラス)。その他、次女が産まれた年は1年間の時短勤務取得。直近の育休取得は、今から約1年前です。当時は38歳、長女4歳、次女1歳でした。
私は、金融機関でバックオフィスの業務をしており、部下10人ほどの部署のマネジメントとプロジェクトを任されておりました。
今でこそ、育休を取得したことはあらゆる面において良かったと自信を持って言えますが、取得を決めた当時はたくさんの迷いや不安がありました。
ここでは、主に部下を持ちマネジメントする立場にいらっしゃる方向けに、育休取得前後も含めた気づきや葛藤などについてお話したいと思います。
育休取得を決意した3つの理由
育休は、大きく3つの目的を持って取得しました。
1つ目は、産後の母体ケアのためです。
僕は以前「出産は交通事故と同じくらいのダメージがある」と聞いたことがありました。そのため、産後1カ月程度は安静にしている必要があり、夫婦の実家がともに地方である我が家では、産後の母体ケアのためには育休取得が必須でした。
2つ目の理由は、自分自身の経験のためです。
会社員生活10年以上ともなり日々仕事に追われていると、毎日会社に行き1日の半分を捧げるという世界に何の疑いも感じなくなってきますが、会社という限られた空間から一歩外に出れば全く異なった世界が広がっており、そんな世界での生活を体験してみたかったという理由です。
そして3つ目の理由は、育休を取得しないことによる損失が大きいためです。
人生において、会社に捧げる時間も長いですが、老後も含めて考えると、たいていの方は妻や家族と過ごす時間が最も長いということになるかと思います。
家族にとって最も大きなイベントともいえる出産や育児を経験せず、妻と体験を共有できないことは、長い人生においてどれほどの損失があるか計り知れないと思います。
イクメンだと思っていたが、実は仕事中心の世界にいた
妻が次女を妊娠中のことです。当時は夫婦そろってフルタイム勤務だったのですが、私はマネジメントをする立場で大きなプロジェクトも進めていたので、仕事は忙しく帰宅するのは連日23時ごろでした。
ですが、育児については、休日はかなりの時間を捧げていましたし、育児における各タスクにはコミットして完遂しており、世間の平均からすればかなりやっている方だったと思います。
周囲からはいわゆるイクメン扱いされていて、家庭内における自分の役割やパフォーマンスにはそれほど疑問を持っていませんでした。
妻のフリータイムやリフレッシュの時間も確保していましたし、我が家の生活や家事育児は、それなりにうまくいっていると思っていました。
でも、そんなある日、いつものように子どもの寝かしつけが終わった後の休憩タイムで、ふと妻から「私はこのまま下の子が生まれるのは不安だよ……」と言われ、ハッとしました。
結局のところ、僕が見ていたのは生活の中心を仕事においている世界であり、絶対的に見たら家事や育児の負担は妻に偏っていたのだと気づかされました。
妻への甘えがあったことに気づくと同時に「このままでは家庭が守れない」と本気で自分が変わる必要性を認識しました。
実は当時、会社からは管理職への昇進を打診されていたのですが、それを断り、逆に1時間の時短勤務を取得するところから育休準備をスタートしました。
自分が業務を離れたことは、メンバーの成長につながった
取得時は、全社的に3年がかりで取り組んでいるグループ再編や、それに伴うメインシステムの変更という非常に大きなプロジェクトの真っ只中でした。
通常業務に加えてプロジェクト対応もあり、チーム全体には出口のないトンネルの中にいるような雰囲気が漂っていました。
職場内の人間関係は比較的良好なほうでしたが、長時間労働や過度のプレッシャーなどから多くの退職者が出て、職場環境は控えめにいっても劣悪でした。
そんな中、部下を残して育休を取得することにはやはり大きな迷いがありましたし、出世欲はあまりない方でしたが、自身のキャリアへの不安も当然ありました。
葛藤について書くとそれだけで数十ページを割いてしまいそうなので、取得した結果や気づきを中心に記載したいと思います。
劣悪な環境下に部下を残して取得した育休でしたが、結果自分が見たものは、大きく成長したチームのメンバーたちの姿と、自分がいなくても仕事はまわっているという現実でした。
「経験は人を成長させるのだな」と強く感じたとともに、逆に自分が頑張りすぎていたことで、メンバーの成長機会を奪っていたということを強く実感しました。
この経験が、今の自分のマネジメントスタイルの基礎をつくっていると思います。以前より人材育成をかなり意識するようになり、リスク許容度も大きくなったと思います。多少のトラブルは自分で処理せずに、部下に任せられるようになりました。
また、育児によってマネジメントスキルはものすごく磨かれたと思います。持論ですが、「育児とは最も難易度の高いマネジメント」といえると思います。
想像してみてください、ロジックが通用しない、言葉も通用しない、基本的に理不尽、そして膨大な要求を24時間求められ、それらをマルチタスクでこなさなければならない……。
一方、会社を例にとってみれば、話が通じない人とか頑固な人といわれている方であっても、ある程度ロジックは通用しますし、何より言葉が通用します。
どんなに理不尽といわれる人でさえも、子どもと比べたらたかが知れていますし、どんなにひどい会社であっても、社員はコンプライアンスや法律といったものである程度は守られています。いかに育児におけるマネジメントの難易度が高いか、想像できることと思います。
あとは、やはり会社を離れる経験は人生を豊かにするし、見識を広げると思います。
大半の人は20代の前半ごろに就職をして、その後30年以上、疑うことなく毎日会社に行き続ける生活をするかと思います。でもそんな生活のすぐ隣に、サラリーマンの知らない世界が広がっています。育休とは、そんな世界を体験できる貴重な機会であったと思います。
あなたの一歩が、日本を変えていく
金銭的な負担といった意味では、私の場合、2カ月ちょっとの育休で約100万円のコストがかかりました。月給については、育児休業給付金がもらえるので、手取り換算だとそこまで大きな影響はありませんが、ボーナスはかなり減ります。
でも、その金額を払ってでも取得する価値は十二分にあったと感じています。それぞれに環境や状況が違うし、給与やボーナス比率によってもコストのインパクトは大きく変わると思います。それぞれのご家庭に合った最適な取得期間はあるとは思いますが、育休取得自体は自信を持ってすすめられます。
もし育休を取らない人が自分の上司だった場合、部下であるあなたは、育休取得の相談ができるでしょうか? 今、自身が上司の立場で、育休取得を迷っているのであれば、部下に迷惑がかかるという発想ではなく、後に続く部下の育休取得のため、部下の成長のため、そしてあなた自身のマネジメントスキル向上のため、ぜひ育休を取得していただきたいと思います。
立場あるあなたが勇気をもって一歩を踏み出すことが、日本を変えていくと思います。そして、育休は介護休暇へとつながります。子育てが終わった世代の人たちにとっても、決して他人事ではないのです。
上司の育休は会社にとっても大きなメリット
井上さんのお話の中で、育休を取ったことで逆にチームのメンバーが大きく成長したことや、育児をすることによってマネジメントスキルが向上したことが印象的でした。
また、復帰後は人材育成をかなり意識するようになったり、リスク許容度が以前より大きくなったりと、育休の取得がチームや会社全体へ大きなプラスの影響を与えたのかなと思いました。
部下を持つ人が育休を取った例はまだまだ少ないですが、そういった人たちが育休を取得することで、様々な良い影響をチームや会社全体に与えられる可能性を秘めていると感じました。
著者:成川 献太
広島県で小学校教員を務める3児の父。第3子誕生により、2020年8月より1年間の育休を取得。その際「家族との向き合い方」で悩んでいたところ、他のパパたちも同じように悩んでいることを知る。家族と向き合うパパママを増やしたいと、出版プロジェクトに向けて行動を開始。育休&共働きコミュニティ「ikumado」メンバー。
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