相場展望7月19日 日本株軟調の要因は、『政治リスク』の混迷 離れた外国人投資家を呼び戻すには、この解消必要
2021年7月19日 08:14
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)7/15、NYダウ+53ドル高、34,987ドル(日経新聞)
・機械のハネウェルと医療保険のユナイテッドの2銘柄でNYダウを+70ドル押し上げた。
・主要ハイテク株は利益確定売りで下げ、相場の重荷になった。
・NYダウは過去最高値近辺とあって、上値は重い。
【前回は】相場展望7月15日 米FRB内部で『雇用・インフレ』矛盾発露 8月上旬までは株式市場は揺れながらも堅調予想
2)7/16、NYダウ▲299ドル安、34,687ドル(NHK)
・インドで確認された変異ウイルスの感染が急速に拡大していることへの懸念などから、多くの銘柄に売り注文が出た。
・米国の消費者の購買意欲を示す指標が7/16に公表されたが、市場の予想を下回ったことから、インフレが経済に及ぼす影響に懸念が高まったことも、売り注文につながった。
・この調査では、消費者の1年後の予想インフレ率が6月の4.2%から4.8%に上昇し、米国家計が住宅や耐久消費財などの値上がりへの懸念を強めていることも明らかになった。(日経新聞)
●2.米国FRBのテーパリングは、『8月公表&12月実施』が濃厚と予想
1)パウエルFRB議長は「FOMCの次回会合で、米国債・MBS購入で協議」と述べた。
2)現在、毎月1,200億ドルの債券購入(米国債800億ドル、MBS債400億ドル)しているが、この購入額について協議するとの意味合いであろう。
3)特に、MBS債(住宅ローン抵当証券)の減額を中心に意見交換することになると思われる。
4)減額となった場合、パンデミック以降としては、FRBが市場に資金供給を減少する初めての決定ということになる。減額と言っても、FRBの市場への資金額が減るだけ、FRBのバランスシート上昇額が小さくなるだけである。ただ、増加一辺倒だっただけに、一定のサプライズは起こる可能性がある。市場の反応に注意したい。サプライズとなるような大きな減少幅であれば、株式市場は動揺する可能性がある。おそらく、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)はMBS債▲100億ドル程度の減額から始まると予想する。
5)テーパリング決定と実施時期の予想
(1)FOMCの次回会合は7/27~28。そのあとは9/21~22。
ジャクソンホールホール会議 8/26~28でのFRB議長講演で量的緩和表明の有力
(2)テーパリング開始時期の予想は12月。
(3)ドル円はドル高・円安で、111円台を予想。
6)米株式の予想
いずれにせよ、FRBの債券購入額の減少は、FRBの政策転換を想起させるものであり、「気の早い投資家が、売りを加速し手仕舞いする」可能性がある。それを受け、その他投資家の追随次第によっては、株式市場が動揺し波乱を起こすリスクに身構えたい。
●3.米長期金利低下を受けて、ドル売りが優勢(フィスコ)
1)前日のパウエル米FRB議長の議会証言を受けた、米長期金利低下にともない、ドル売りが優勢になっている。
2)米10年債利回りは一時1.296%に低下した。
⇒ 為替市場では、ドル売り圧力(円高)が継続している事態を引き起こす可能性。
⇒ 為替市場では、パウエルFRB議長に対する信認を弱めているかもしれない。
⇒ 長期金利低下にもかかわらず、ハイテク株の多いナスダック総合が下落。「長期金利低下⇒ナスダック総合の上昇」シナリオと逆の動向に要注意したい。
●4.米失業保険申請件数36万件と、前週38.6万件を下回り、最低更新し改善した(フィスコ)
1)景気回復を裏付けた
●5.米上院は7/15、1.2兆ドルのインフラ法案審議入り動議を7/21採決へ(ロイター)
1)法案審議を進めるには60議席の賛成者が必要。
2)与野党50議席と拮抗する上院で、民主党は共和党から少なくとも10議員の支持を取らなくてはならない。
●6.OPEC予想、2022年の世界の石油需要はコロナ前の水準に回復(ロイター)
●7.英国
1)英中央銀行で、金融緩和縮小を巡る議論活発化、来月にと一部委員(ブルームバーグ)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)7/15、上海総合+36高、3,564(亜州リサーチ)
・中国の金融緩和スタンスが好感されたが、市場では景気腰折れを回避するためもう一段の引下げがあるとの見方もある。
・経済指標が公表されたが、無難な内容と受け止められたことも、投資家の買い安心感につながった。
(1)4~6月期GDP成長率 (2)小売売上高 (3)鉱工業生産額など
2)7/16、上海総合▲25安、3,539(亜州リサーチ)
・前日に各種指標が公表され上昇したが、材料出尽くし感が広がり、ほぼ織り込まれたとの見方がある。
・業種別では、消費関連・半導体・医薬品・不動産・銀行保険などが売られた。反面、非鉄や鉄鋼の素材株が買われた。
●2.米政権、香港での事業リスクに警戒を呼び掛け「勧告」(朝日新聞)
1)中国は、(1)「香港国家安全維持法」施行、(2)「反外国制裁法」を成立。
2)中国からの報復措置のリスクもあり、香港での事業環境の先行き見通し難。国際金融センターとしての競争力が低下し、地位を弱める可能性がある。
●3.中国4~6月GDP成長率+7.9%、5期連続プラスも市場予想下回る(NHK)
1)米国などの景気回復を受けて輸出の増加が続いた。一方で、政府の財政支出縮小の影響でインフラ投資の伸びが小さくなった。
2)原材料価格の高騰によって、中小企業の経営に影響が及ぶ懸念が強まっている。中国の中央銀行は今月、資金繰りを支えるための追加金融緩和に踏み切っている。
3)中国は大規模な財政出動といった政府の経済対策を背景に他国に先駆けて経済が回復してきたが、今後はその勢いは弱まると予測される。そのため、依然として力強さを欠く個人消費をどう上向かせていきかなどが課題になる。
●4.中国6月失業率5.0%で市場予想と一致(フィスコ)
●5.中国6月小売売上高、前年比+12.1%で予想を上回る(フィスコ)
●6.中国6月鉱工業生産、前年比で+8.3%で市場予想を上回る(フィスコ)
●7.中国不動産投資1~6月期は前年比+15.0%と、1~5月の+18.3%増から鈍化(ロイター)
1)床面積ベースの販売は、前年比1~6月+27.7%増、1~5月は36.3%だった。
●8.中国版の固定資産税を一部都市で試験導入し、投機抑制をねらう(日経新聞)
1)ねらい
(1)住宅価格の高騰を抑える。
(2)財政難にあえぐ地方政府の収入を増やす。財務省によると、3,000近くある県の約2割は、深刻な財政難で公務員給与の未払いリスクに直面している。
(3)複数の物件を持つ「持てる者」への反発の根強さの軽減。
2)課税対象
(1)建物、土地
2011年に上海と重慶が建物のみに所有税を導入していた。
3)矛盾
(1)土地の所有者は「国」なのに、個人や企業が所有税を払うという矛盾。
(2)使用権は企業や個人にあるが、その評価基準が定められていない。評価基準がないので、課税評価額を算出できず、課税額も決定できず。使用権の期限は、商業施設で最大40年、住宅地は最大70年。使用権は自動延長できるが、使用権の購入費用の取り扱いが決められていない。
4)地方財政
(1)地方財政は、不動産の開発や売買への依存度が高い。地方政府が2020年に国有地の使用権を不動産会社に売って得た収入は、中央と地方を合わせた税収総額の5割を超えた。
(2)人口流出が加速する中小都市では、建て過ぎたマンション在庫を処理できない恐れがある。そのため、財源不足を緩和させるために、土地含めた地方所有税を作り財源不足を解消させたい。
5)強い反発
(1)財政当局は2025年までに不動産税を全国導入したい考えだが、共産主義体制と土地の国有性とも相容れない部分がある。
(2)複数物件を持つ共産党幹部や富裕層の「持てる者」からの反発が根強く、不動産税導入の将来像は見えない。住宅所有世帯の31%が「2軒」、10.5%が「3軒以上」を保有。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)7/15、日経平均▲329円安、28,279円(日経新聞)
・中国の4~6月期国内総生産(GDP)は+7.9%増と、市場予想を上回ったものの、先行きの減速への警戒が根強く、日本株の支援材料にならなかった。
・日本株には、海外勢からの資金流入が見込みづらく、期待感だけでは買えないというムードがある。
・台湾TSMCの純利益が前年同期比+11.2%増だったが、市場予想を下回ったことが嫌気され、半導体関連銘柄が下落に転じた。
・コロナ国内感染拡大への警戒感が重石。(ロイター)
2)7/16、日経平均▲276円安、28,003円(日経新聞)
・前日の米ハイテク株安を受けて、台湾TSMCの決算が市場予想を下回ったため、半導体関連株などに売りが出た。
・今期営業利益予想引下げのFリテイと新薬期待が薄れたエーザイの2銘柄で▲123円押し下げた。
・中長期の資金が入っていないとの指摘があった。
●2.日本株は、『政治リスク』が台頭し、日経平均は軟化傾向をたどる
1)「政治リスク」が浮上
(1)菅政権の支持率72%⇒30%と急低下
(2)コロナワクチン接種抑制の供給問題と情報公開のミスリード
(3)東京都議会選挙、国政選挙で自民党の惨敗続き
(4)オリパラ開催と観客問題で政府が右往左往
(5)変異種再感染者数増大と「金融機関等を巻き込んだ」抑制策の政治的混乱
(6)自民党内での選挙候補者公認問題を巡って派閥間で激しい暗闘
2)外国人投資家は「政治リスク」を最も嫌う
(1)外国人投資家は以前から「政治の不安定」を最も嫌うという特徴がある。
(2)7月第1週、海外投資家が日本株を▲2,048億円売り越し(現物+先物合計)。
(3)菅政権の支持率が顕著に低下、しかも不支持率が上回るようになってから、
(4)外国人投資家の売り越しが2カ月以上続いている。
(5)日経平均の低下▲5.1%を超えて、外国人投資家の先物買残が▲24.2%減少
5/10 6/15 7/16 5/10比
日経平均 29,518円 29,441 28,003 ▲ 5.1%減少
外人先物買残 180,520枚 160,207 136,850 ▲24.2%減少
特に、相場動向に敏感なCスイスは先物を大量に売り越し
5/10 6/15 7/16 5/10比
Cスイス先物残 ▲ 1,432枚売 +2,619枚買 ▲20,421枚売 売14.3倍急増
3)日本株上昇には、政治リスクを解消し、外国人投資家の買い戻しが必要
●3.日本・10年長期金利7/15、0.01%まで低下
⇒ 債券市場は、日本経済の先行き懸念を表しているのか? 否か? 注目したい。
●4.半導体世界最大手の台湾TSMCが、日本に半導体工場建設を検討(NHK)
1)TSMCは今年、日本の半導体関連メーカーと最先端の半導体の研究開発を茨城県つくば市で共同で行うことで合意し、日本側は製造拠点の誘致に意欲を示してきた。
●5.東京メトロ、国と東京都が保有株の各50%を売却し、上場へ7/15に合意(NHK)
1)東京メトロの株主構成は、国が53%、東京都が47%。
2)法律で、民営化は既に決定済み。
3)国の保有株の売却益は、東日本大震災の復興財源に使われる。
4)売却後も2者でなお50%の株式を保有する理由は、地下鉄の延伸を担保するため。
延伸は、(1)有楽町線の豊洲駅⇔住吉駅 (2)南北線の白金高輪⇔品川駅
●6.脱炭素は中央銀行である日銀の仕事なのか? 日銀の気候変動対策資金(朝日新聞より抜粋)
1)日本銀行は7/16、気候変動対策のための投資や融資をする金融機関に対して、ゼロ金利で資金供給するとなど金融政策で支援すると発表した。
2)先進国の中央銀行は、物価や金融システムの安定を使命とする。そのため、中央銀行は政府から『独立性』を与えられている。中央銀行の金融政策は、政府の財政政策と一定の距離を取って独立運用した方が上手くいくと考えられているからだ。
3)脱炭素は、政府政策である。日本銀行が脱炭素支援策としての投資・融資を支援することは、日銀が政府機関に組み込まれた運営を実施することとなり、日銀の『独立性』を自ら放棄する行為と見なされる。黒田日銀の『危うさ』を危惧する。
●7.企業動向
1)ワコール ブランド数を3割削減、営業体制も再編(朝日新聞)
2)藤田観光 資本金1億円へ大幅減資(NHK)
コロナの影響で旅行・宴会の需要が落ち込み、大阪「太閤園」売却・従業員の基本給減など立て直しを進めている。
3)小田急百貨店 新宿駅西口再開発で、新宿本館を来年9月末で営業終了へ(NHK)
●8.企業業績
1)コメダ 3~5月期純利益が+13億円と前年同期比2.2倍となった(日経新聞)
2)Fリテイ 9~8月期計画比営業利益▲3.9%減の2,450億円に下方修正(NHK)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・6503 三菱電機 不祥事で下落したが、企業業績には影響なし。
・2607 不二製油 油脂大手で、大豆たんぱく展開。
・2326 デジタルアーツ ネットセキュリティ専業、業績堅調。
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