コメから作る冷蔵不要の飲むワクチン 人への有効性と安全性を確認 東大ら
2021年7月3日 16:33
東京大学らの研究チームは、コレラ菌感染を防ぐために開発した飲むワクチン「ムコライス」に関して、健康成人を対象とした医師主導第I相試験において、有効性(免疫原性)と安全性、忍容性を確認したと発表した。
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ムコライスは、イネの遺伝子にコレラ毒素の一部の遺伝子を組み込んで作られたワクチン。粉末にした米のため、常温での輸送や保管が可能だ。冷蔵での保管や注射器の使用が難しい環境下にある発展途上国を含む国々にも、安価な飲むコレラワクチンが提供されることが期待される。
この研究は、東京大学および千葉大学の清水宏特任教授、東京大学の幸義和特任研究員、田中廣壽教授、長村文孝教授、井本清哉教授、大阪市立大学の植松智教授らによって行われた。25日のオンライン版The Lancet Microbeに掲載されている。
コレラとは、口から入ったコレラ菌が小腸で増え、その菌が出すコレラ毒素(エンテロトキシン)によって起こる急性腸炎だ。感染者の約20%ほどが重症化し、水のような下痢と嘔吐が突然起こる。発熱や痛みはないが、重症の場合は1時間に1リットルほどの水分が失われるため、脱水や電解質不足を起こし、腎不全やショックにより命を落としてしまうこともある。現在、世界中で年間におよそ130~400万人のコレラ菌に感染し、2~14万人の死者が出ている。
コレラ毒素は1つのAサブユニットと5つのBサブユニットでできている。Aサブユニットは毒素本体だ。Bサブユニットは感染する時の足掛かりとなる部位で毒性はない。小腸で増えたコレラ菌が出す毒素のAサブユニットにより、小腸からの水分分泌や運動が増加するため、下痢症状が起こる。余談だが、このコレラ毒素の働きを利用して作られた便秘薬も存在する。
現在世界で使用されているコレラワクチンは、冷蔵保管を必要とする。しかし、コレラが流行している東南アジアやアフリカ、インドなどの地域にとって、冷蔵保管が不要であれば大きな負担減になるだろう。さらに針や注射などの医療廃棄物が出ない経口ワクチンが理想だ。
研究グループはイネの遺伝子にワクチンの抗原を組み込んだ米「ムコライス」を開発した。今回抗原として用いたのは、コレラ菌が作るコレラ毒素のうち、毒性を持っていないBユニットだ。
このムコライスをマウス、ブタ、そして霊長類に飲ませたところ、コレラ毒素に対する抗体を作るようになることを確認。さらにこのワクチンは、旅行者下痢症の原因の1つである毒素原性大腸菌由来易熱性毒素による下痢症にも効果があった。これらの効果は常温で36カ月保存した後でも保たれていたという。
研究グループは、60人の健康な成人男子を対象に、医師主導型第I層試験を東京大学医科学研究所附属病院にて行なった。ムコライス、または通常の米を粉末にしたものをリン酸緩衝生理的食塩水に溶かしたものを投与したところ、有害事象は起こらなかった。
また、ムコライスを投与した人の血液中にはコレラ毒素に対する抗体が増加しており、毒素原性大腸菌由来易熱性毒素に対しても反応。そしてこの抗体は、コレラ毒素が細胞に結合するのを抑えることを試験管レベルで確認した。ムコライスを投与された人の腸内細菌の状態と免疫の働きと関連している可能性も明らかになった。
研究グループは、LEDを応用した安価な栽培システムの構築を目指し、栽培や植物工場などの異分野との協力を継続しているという。今後、臨床試験が進み、冷蔵不要で世界中への輸送、保管がしやすく安全なコレラワクチンが実用化されることに期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)