ブロックチェーンでSDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の実現を後押し(連載6回目)
2021年6月28日 08:17
【連載6回目】技術はどんどん進化しているのに、暮らしやすくなったり、日々が豊かになったような気があまりしない……。どうしてだろう? 皆さんはそんな風に感じたことはありませんか? この連載では、いろいろな会社や学校などと共に、より「良く生きる」ためのテクノロジーの活用方法を追求している日本アイ・ビー・エム株式会社のとあるチームの取り組みをご紹介させていただきます。
本記事の原稿は、AIやIoTを活用し、さまざまな企業・組織と協働して社会課題の解決につなげる活動をされている、日本アイ・ビー・エム株式会社の八木橋パチさんに寄稿していただきました。
(グーテンブック編集部)
人が「良く生きる」ためのテクノロジーを | (行き過ぎた資本主義のど真ん中から)
連載第1回~第5回の記事は、こちらからご覧いただけます。
Cognitive Applications Blog | IoTソリューション | Powerd by AI (コグニティブ)
Watson IoT Blogは、IoT (Internet of Things: モノのインターネット) の活用事例やIoTソリューションの最新情報など、AIによるコグニティブな分析と洞察を搭載したIBMのIoT基盤であるWatson IoTに関する最新情報をお届けします。収集したIoTデータの価値をAIで最大化し、新たなコネクテッド・ビジネスの実現を支援します。「ブロックチェーン(Blockchain)」 ── すごく儲かるお得な話? それとも危ない投機話? いやいや究極のアナーキズム??
どれも、「ブロックチェーン」に対して誰もが1度くらいは耳にしたことがある言葉ではないでしょうか。かくいう私も、以前はなんとなく「ブロックチェーンってなんだか胡散臭い」というイメージを持っており、あまり積極的には近寄らないようにしていました。
そしてさらに最近では、「ブロックチェーンは大量の電気を消費していて、その消費量はデンマークやアイルランドなどの1つの国が使う量と同じくらい」という話を耳にすることも増え、それまでの胡散臭さに加えて環境保全の敵であり、SDG7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」という目標達成を妨げるものというイメージまで付いてきてしまっているのではないでしょうか。
ブロックチェーンの2つのタイプ。パブリック型と許可型
でも、実際は、ブロックチェーンと言っても大きく2つのタイプがあるんです。
冒頭に挙げた「儲かる」とか「投棄」という印象を与えるのは、ビットコイン(Bitcoin)に代表される「暗号通貨(Cryptocurrency)」であって、「パブリック型」と呼ばれるタイプのブロックチェーンです。
「パブリック型」という名前が示す通り、こちらは基本的にGMOコインやDMM Bitcoinなどの取引所を通じて、いつでも誰でも暗号通貨を売り買いすることができます。最近は、こうした取引所を使うための口座開設を促す派手な広告を目にすることも増えていますね。
そんな派手な「パブリック型」とは異なる別のブロックチェーンが、「許可型」と呼ばれるものです。
許可型のブロックチェーンには、ビットコインのような「誰もが耳にしたことがある有名な存在」はありません。また、許可型という名前から推察できるように、誰でも参加できるというわけでもありません。
そのせいもあってか一般にはあまり見聞きする機会がなく、そのために「ブロックチェーン = ビットコイン」というのが多くの人のイメージになっていて、「社会の役に立っている」という印象が薄い…というか、存在自身があまり認知されていないような気もします。
でも実際には、社会課題の解決策として用いられているブロックチェーンの多くは、許可型のものなのです。
社会課題解決に役立つ許可型ブロックチェーン
それでは、許可型のブロックチェーンは、どのように社会課題解決に役立っているのでしょうか?
その取り組みをご紹介する前に、もう少しだけブロックチェーンの基本を理解しておきましょう。以下に、大まかにブロックチェーンがもたらすメリットと、許可型の特徴をまとめてみました。ブロックチェーンの仕組みとメリット・ ブロックチェーンは、信頼性の高さと安定したシステムが特徴で、「分散型台帳」とも呼ばれる仕組み。
・ 信頼性の高さと安定したシステムを実現しているのは「高セキュリティ改ざんが極めて困難」「実質的にゼロ・ダウンタイム」「データ紛失や書き換えの心配がない」ため。許可型の特徴・ 参加者、および「分散型台帳」の管理者を特定の対象とすることにより、パブリック型のデメリットであるスピードの遅さを解消。
・ データの信用性を担保するための競走的検証が不要で、無駄な電力消費も不要。
それでは、今回から数回に渡り、ブロックチェーンが現在どのように社会の役にたっているか紹介していきます。
今回紹介するのは、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の達成を力強く後押しする海外と日本の事例です。
持続可能な漁業で、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」実現に
まず1つ目は、海外の事例を紹介します。
270万トン以上のシーフード(世界で毎日3600万食が消費されている計算)を140カ国以上に出荷しているノルウェーのシーフード業界が本格導入した、水産養殖漁業の持続可能性を大いに高めるブロックチェーンの事例です。
以下、紹介ページから引用します。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」 | 水産養殖漁業をブロックチェーンで支援
現在では、私たちが世界中で口にするすべての魚の半分以上を水産養殖が担うまでになっています。
人口増加が進む中、養殖産業の進化は、世界中のすべての胃袋を満たすためにより一層欠かせないものとなっていくでしょう。なぜなら、耕作可能な土地は、過去60年間で地球上の総面積の9.7%から11%へとわずかしか増加していないからです。
地上における食糧生産が期待薄なのに対し、海洋には広大なポテンシャルがあります。持続可能な食料源の維持に、シーフードは間違いなく大きな役割を果たすことでしょう。シーフードには不当表示が多いという負の側面もあります。
世界的な海洋保全・保護NPO「Oceana」の調査によると、米国のテストでは魚の20%に誤ったラベルが付けられていたそうです。そしてその誤りの多くが、サーモンやスズキ、ホタテなど、人気の高いシーフードに集中していたそうです。
この種の不当なラベル付けが発生するのは、通常サプライチェーンの途中です。
悪意ある流通業者のこうしたひどい行為により、品質にこだわり、価格に見合う商品と誠実さとを求める消費者が離れていき、高品質のシーフードや誠実なビジネスまでもが被害を被ってしまうのです。今回の導入により、規制当局はライセンス発行時や何らかの検査を行う際に、ブロックチェーン台帳を用いて養殖業者のトランザクションを調査し記録できるようになります。
また、養殖業者は、同じブロックチェーンネットワークを使用して情報共有ができるほか、魚の漁獲地や漁獲時間、いつ何を餌として与えられたのか、輸送保存用に何が行われたのかなど、出荷に関する情報すべてを記録します。
そして食品加工業者、流通業者、消費者の全員が全サプライチェーンを通じて「正確な同じ情報」を共有し協力することで、プロセスを改善し、非効率性と食品ロスを減らすことができます。最近のIBMのグローバル調査では、消費者の71%が、トレーサビリティが重要でありトレーサビリティを提供するブランドには付加料金を払ってもよいと答えています。
持続可能かつ安全に飼育された養殖魚を購入できると知った消費者が増えていけば、その基準がどのように満たされているかを消費者向けアプリにより確認したいと思う人が増えていくことでしょう。そしてブロックチェーンの提供価値を笑顔と共に食卓で実感する人もきっと増えていくことでしょう。
東京湾のスズキを持続可能に! 「Ocean to Table」プロジェクト
続いて、日本の事例を紹介します。
かつては水産大国とされていた日本も、この30年で年間漁獲量が65%も減少しており、このままでは水産資源の枯渇は時間の問題でしょう。この大問題に対して、東京に拠点を置く持続可能なシーフードコンサルティング会社シーフードレガシーを中心として取り組んでいるのが「Ocean to Table」プロジェクトです。
以下、紹介ページから引用します。
ブロックチェーンが伝える、美味しく安全で適正な食の流通
「Ocean to Table」では、東京湾で捕獲されたスズキに関する詳細情報の収集および共有にブロックチェーンを用いています。水揚げされたスズキは「サステナブルな買い物をあたりまえに」の考え方に基づいた楽天のECサイト「EARTH MALL with Rakuten」で販売されます。そして今年公開予定のOcean to Tableアプリを通じ、消費者には直接漁船から取得されたデータが提供されます。Q1: IBM Food Trustの目的とミッションは?
A: IBM Food Trustは、食品業界にとって長年の課題である「食の安全性確保」や「流通経路の透明性」、「フードロス」、「食品汚染など発生時の風評被害」などを解決することを目的としたデータプラットフォームです。Q2: 消費者にとってのブロックチェーンのメリットは?
A: 主に以下のようなものが挙げられます。
・ 食品の来歴が可視化されるので、消費者自らが食品の安全性を確認できます。
・ 来歴情報がサプライチェーン全体で可視化されるため、食品偽装・不正への抑止力が働きます。
・ 食品汚染が発生した場合、影響がある可能性のある食品を早期特定でき、危険な商品の流通を防ぐことができます。Q3: ブロックチェーンはどのように持続可能性を高め、食材・食品廃棄を減らすのでしょうか?
A: まずサプライチェーン全体を可視化することにより、プロセスの非効率性を特定でき、フードロスが発生している要因を特定できる可能性が高まります。IBM Food Trustには鮮度管理機能があり、これを活用することで消費期限が近づいている食品から優先的に利用したり、近くの店舗に融通して消費するなど対応策を打つことができるようになります。
また、プラットフォームから得られるデータを分析することで、需要予測に活用することもできます。
SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の実現達成を、ブロックチェーンがどのように後押ししているか、イメージできたでしょうか。なお、今回ご紹介した海洋資源の持続可能性を高める取り組みは、IBMが取り組んでいる多数のプロジェクトのごく一部でしかありません。
次回はSDGsの目標「8.働きがいも経済成長も」や「15.陸の豊かさも守ろう」の達成への取り組みを、「コーヒーとブロックチェーン」という観点からご紹介します。
Happy Collaboration!
筆者プロフィール:八木橋パチ(やぎはしぱち)
日本アイ・ビー・エムにて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険>をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。 運用サイト: AI Applications Blog(https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/category/watson-iot/)
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Watson IoT Blogは、IoT (Internet of Things: モノのインターネット) の活用事例やIoTソリューションの最新情報など、AIによるコグニティブな分析と洞察を搭載したIBMのIoT基盤であるWatson IoTに関する最新情報をお届けします。収集したIoTデータの価値をAIで最大化し、新たなコネクテッド・ビジネスの実現を支援します。
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