日本人の祖先と港川人に関する記事、朝日と読売で正反対に取れる内容に
2021年6月19日 20:22
朝日新聞と読売新聞で内容の解釈が正反対ではないかとの指摘がされている。総合研究大学院大や東邦大などの研究チームが発表した「港川人」に関する記事で、元の論文は13日付で自然科学を対象とする電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載されている(Scientific Reports掲載論文、総合研究大学院大学リリース、東邦大学リリース)。朝日新聞の「日本人の祖先は「港川人」? 旧石器時代、DNAで解析」という記事では、
沖縄県で約2万年前の旧石器時代の遺跡から見つかった港川(みなとがわ)人が、現代の日本人に遺伝的に直接つながる祖先だった可能性がDNA解析からわかった。
という内容となっている。一方の読売新聞の「旧石器時代の「港川人」、現代日本人と直接つながらず…DNA分析「ルーツ論争」に一石」という記事では、
沖縄本島で出土した旧石器時代の人骨、港川人(約2万2000年前)がDNA分析の結果、遺伝的に縄文人や現代日本人の直接の祖先ではないことがわかった。
としており、確かに冒頭の内容は正反対であるように思える。なお総合研究大学院大学と東邦大のプレスリリース概要では以下のようになっている。
1)港川1号人骨は縄文、弥生、現代の集団の直接の祖先ではないが、2)港川1号人骨のmtDNAは現代日本列島人集団の祖先のグループに含まれるか非常に近いものだということがわかりました。その結果、日本列島では旧石器時代から現代に至るまでヒト集団に遺伝的に連続性があることが示唆されました。
あるAnonymous Coward 曰く、
2021/6/13 朝日新聞DIGITAL (18:00) 日本人の祖先は「港川人」? 旧石器時代、DNAで解析 読売新聞オンライン (22:19) 旧石器時代の「港川人」、現代日本人と直接つながらず…DNA分析「ルーツ論争」に一石
どうも、どちらも不正確であるように見える。 タレコミ子は考古・遺伝子両方面について門外漢であるが、発表 ミトコンドリアゲノムの塩基配列から明らかになった更新世以降の日本列島の人口動態に関する研究 の趣旨を抜き書きしてみた。
旧石器時代のミトゲノム配列は、縄文人,弥生人,現在の日本人のいずれの直接の祖先でもないことがわかった。 しかしハプログループ M の基底型であるため、ハプログループの多様性の観点から、これらの人々の間に母方の遺伝子プールの連続性が明らかになった。 旧石器時代から新石器時代にかけて、日本列島に住む人々の母方の遺伝子プールには動的な変化がない。
縄文人に特徴的なハプログループ M7a と N9b は現在の日本人にも継承されており、それぞれ 7.9 %と 1.3 %となっている。
弥生時代以降、人口規模の大幅な増加が起こり、それが継続している。 稲作という文化的変遷が、日本人の人口動態に大きな影響を与えた。
日本列島では後期更新世から現代の人類集団まで、少なくともある程度の集団の連続性があることが示された。 現在の日本人の遺伝子プールは、旧石器時代から狩猟採集の縄文時代・農耕の弥生時代を経由し 1 万年以上にわたって、 日本列島に住んでいた人々の遺伝子の多様性をすべて併呑する形で確立されていることがわかった。 現在の日本人集団の遺伝子構成は、弥生人の移住イベントと、その後のアジア大陸からの複数回の移住によって構築される。 同時に、現在の日本人の人口構成について、縄文人の貢献を無視することはできない。
(a) 旧石器時代の日本列島への最初の移住の波以来、母方の遺伝子プールには連続性があることをハプログループの多様性の観点から示した。 (b) 現在の日本人の祖先は 3 回の大きな人口増加を経験したが、最初の 2 回は主にアジア大陸で起こった。 (大陸から日本への人口移動 および 稲作や製鉄技術の伝播の影響による人口増加、という話 / タレコミ子) (c) 縄文人の狩猟採集民の遺伝子プールは、弥生人の移住とそれに伴う人口爆発の後も存続している。
「母方の遺伝子プール」の意味するところを理解していないので詳しい方に補足をお願いしたいが、 いわゆる「母系」・「男系(直系)」といったものとは異なる術語のようだ。
港川人については以下も。 https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/my_research/anthropology/kaifu/index2.html https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%AF%E5%B7%9D%E4%BA%BA