老化による腸内細菌の変化メカニズム、世界で初めて解明 北大の研究
2021年6月16日 18:54
腸活、菌活、という言葉を見かけたことはあるだろうか。腸内の菌が健康に密接な関わりを持っていることは今では常識になっている。年齢が上がるにつれて、腸内の細菌は変化していき、それが原因と考えられる体調変化や病気もある。北海道大学の研究グループは11日、加齢によって起こる腸内細菌叢の変化が、腸の細胞で作られるαディフェンシンが減ることに起因することを突き止めたと発表した。今後、αディフェンシンを中心とした治療法や健康維持法などへの応用が期待できる。
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研究は、北海道大学大学院の中村公則准教授、綾部時芳教授、玉腰暁子教授のグループにより行われ、8 日に加齢医学の国際学術専門誌「GeroScience」 にオンライン掲載された。
人の腸内には細菌が約100兆個も存在している。しかもその細菌は1000種類ものバリエーションに富んでいる。この腸内細菌まるごとを、腸内細菌叢、または腸内フローラと呼ぶ。これらの腸内細菌の中には善玉菌、悪玉菌、そしてどちらでもない菌が混ざっており、様々な病気とこの細菌のバランスが関連していることが知られている。
これまでに、αディフェンシンという、腸で分泌される物質が腸内細菌叢に影響を与えていることは、様々な研究により明らかになってきていた。うつ病や精神的ストレスでαディフェンシンの量が減ってしまい、その結果、腸内細菌叢の状態が変わってしまうこと、またαディフェンシンの分泌異常と2型糖尿病の関連性などについても研究が行われている。
αディフェンシンは、抗菌ペプチドと呼ばれる物質の1つである。抗菌ペプチドは、植物、昆虫、哺乳類など地球上の多細胞生物すべてが、それぞれの体を守るために作っている小さなタンパク質だ。免疫が、外部から侵入してきた異物をやっつけるシステムだとすると、抗菌ペプチドは侵入前の異物を撃ち落とす仕組みといえる。前者を獲得免疫、後者を自然免疫と呼ぶ。
人の体内で作られているαディフェンシンは6種類あるが、そのうち腸のパネト細胞で作られるものは、腸内細菌のバランスをコントロールする働きを持つ。この抗菌ペプチドは、外来の細菌をやっつけるが常在菌は維持することで細菌のバランスをコントロールしている。
今回研究グループは、北海道寿都町の居住者を対象とする地域コホート研究への参加者のうち、消化器系の治療を受けていない196名の便の提供を受けた。そして加齢がαディフェンシンの分泌や腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを調査。
結果、70歳以下の中高年者と比べて70歳を超える高齢者で、明らかにαディフェンシンの量が減少し腸内細菌のバランスに変化が起こっていることがわかった。このことより、加齢によって自然免疫が衰えることが、初めて明らかになった。
腸内細菌と様々な疾患に関連性があることから、今後、αディフェンシンの分泌を促進することによって腸内細菌のバランスを整えること、ひいては病気を予防や改善する食品や、医薬品などに応用されていくことを期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)