【小倉正男の経済コラム】米国CPIは5%上昇、インフレは「一時的」か否か

2021年6月13日 20:44

■消費者物価は4月4・2%、5月5・0%上昇

 10日に発表された5月の米国消費者物価指数(CPI)だが、前年同月比5・0%上昇というものだった。4月は前年同月比4・2%増だったから、2カ月連続で上昇率は異例の高さを示している。

 前年の同時期は、新型コロナ蔓延で経済がドン底期にあったわけで、当然ながらその反動もある。しかも、この4,5月は、バイデン大統領の直接給付追加など大型景気浮揚策に加えて、ワクチン接種の広がりもあって経済再開が加速されている。

 消費者物価の上昇から、「インフレ懸念」が騒がれるのも無理はないところである。

 半導体不足の影響で新車供給に問題が発生して、中古車価格が30%上昇したなどという報道もされている。旅行需要の急回復でレンタカーが不足している、新型コロナ禍から一般の人々が電車など公共交通機関を使うのを嫌って、クルマを購入しようとしているなどの需要が沸き起こっている。

 前週の雇用統計では、飲食、宿泊が雇用を引っ張ったが、それでも労働市場は人手不足となっており、採用が十分に進んでいない状況となっている。新型コロナの体験から接客業への就業が警戒・敬遠されている面が現れている。雇用のミスマッチ現象が起こっている。

 しかも失業給付の上乗せが行われており、就業するより失業のままのほうがむしろよい生活できるといった傾向が継続している。労働需給が逼迫して、賃金が上昇傾向にある。インフレ懸念、あるいはインフレの兆候が現れているということになる。

■インフレは「一時的な動き」という判断

 ただし、金融当局である連邦準備理事会(FRB)は、これらのインフレ含みの動きは、いまのところ「一時的なものになる見込み」としている。経済再開で需要が一気に吹き出しているのに加えて半導体不足、原油価格上昇、労働のミスマッチなど様々な要因が重なり、供給が追い付いていない。

 5月の雇用者数は、新型コロナ以前との比較では760万人下回っている。そこからみると、まだ米国の経済水準は以前の状態に戻っていないと判断している模様だ。インフレ懸念、あるいはインフレの兆候があるからということで早めにテーパリング(金融緩和策の縮小)、さらに金融引き締めに動けば、せっかく加速スピードが付いてきた経済再開の芽を摘んでしまうことになる。

 つまり、インフレ叩きも仮にタイミングが早過ぎれば、景気のピークに至る前に景気を終わらせることになる。せっかくの雇用にしてもフルに埋めることなく、雇用機会を失わせることになりかねない。

 連邦準備理事会は、過去の景気回復期から判断して、インフレ懸念、あるいはインフレの兆候は認識しているが、「インフレ」とは断定していない見込みである。それが現状の「一時的な動き」という判断になっているわけである。

■下手な政策変更は景気の芽を摘む

 来週の15日、16日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。金融政策の最高意思決定会合であり、これによる政策決定が当面の注目点になる。

 FOMCでは金融政策の変更が議論されるといった見方が出ている。米国債など資産購入などの調整、縮小が議論される可能性は強いとみられる。議論や言及があるのは当然のことである。ただし、仮にテーパリング(金融緩和策の縮小)めいた方向に舵を切れば、株式市場には相当なマイナス要因になりかねない。

 だが、現状ではそこまで踏み込むかどうかは疑問である。いまはあくまで経済回復の途上局面であり、ともあれ回復軌道を確かなものにするのが先決である。もし早めに動くことになれば、それこそ下手な政策変更となり、景気の芽を摘んでしまう可能性がある。政策見直しの是非については、おそらく7月以降に“仕切り直し”になる可能性のほうが現状では妥当なのではないかと思われる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当) (情報提供:日本インタビュ新聞社=株式投資情報編集部)

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