消化可能なプラスチックを開発 海洋生物を誤飲から救う 北陸先端科技大ら
2021年5月16日 15:59
私たちが捨てたプラスチックゴミが海に流れ込む。それらをイルカや海ガメなどの海洋生物が餌と見間違えて食べてしまうということが、日常で起こっている。誤飲したプラスチックが胃にたまると、満腹だと勘違いして食事を取らなくなり、命を落とすこともあるという。北陸先端科学技術大学院大学は10日、消化酵素で分解する新たなナイロンを開発したことを発表した。
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この研究は、同大の金子達雄教授らのグループによって行われ、4月30日に独国科学誌「Advanced Sustainable Systems」に掲載された。
プラスチックとは通常、原油を蒸留して作られたナフサを原料として作られた高分子物質である。他にもトウモロコシなどの植物由来の物質を原料にしたバイオプラスチックもあり、石油資源枯渇への対策として注目されている。
これらプラスチックは様々な形へ加工しやすいため、多くの用途に用いられている。その絶縁性や軽さを生かして電気製品や建築材料、梱包材、ペットボトルなどの容器へと加工され、我々の生活を豊かにしてくれている。だが使い捨ての用途に用いられて生じたゴミは自然界で分解されないため、どんどん蓄積されていく。
このような問題を解決するために、これまでにも生分解性プラスチックが開発されてきていた。これは微生物によって分解できるプラスチックだ。地中に埋めたりコンポストに入れることで水と二酸化炭素に分解される。
もう1つの問題は、プラスチックが海に流され海洋ゴミの問題を引き起こしているということだ。海に流れ込んだプラスチックは、海鳥や鯨、イルカ、海ガメなどといった海洋生物が食べ物と間違えて食べてしまう。食べてしまったプラスチックは消化されずに胃のなかに止まってしまうため、自分が満腹だと勘違いしてしまった動物は食事を取らずに弱っていく。
今回、研究グループは麹菌が糖を分解してできるイタコン酸とアミノ酸の1つであるロイシンに、ヘキサメチレンジアミンを反応させて「バイオナイロン」を合成する方法を開発。このバイオナイロンは、胃が分泌する消化酵素ペプシンで分解可能。つまり、このナイロンを誤飲してしまっても、食べ物のように分解できるのだ。
また、生分解性プラスチックは力をかけた時の強度が弱くなりがちだが、このバイオナイロンの強度は80MPa(メガパスカル 圧力の単位)で、ポリエチレンや塩ビ、ポリスチレンなど(20-70MPa)と比較しても丈夫で、温度への耐性も高かったという。
研究グループは、今後海洋ゴミとして被害の多い釣り糸や漁網へ応用していくことを目指している。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)