がんの内部環境を正常化 抗がん剤や免疫療法の効果を向上 北大の研究
2021年5月13日 08:19
北海道大学は10日、マウスを使った実験で、糖タンパクの一種である「Biglycan」を阻害すると、がんの内部環境が正常化され、抗がん剤の送達が改善されると共に、免疫細胞の浸潤が増加することが確認されたと発表した。
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研究グループによれば、今回の研究成果は、抗がん剤や免疫療法の効果を向上させ、その副作用を軽減することにつながることが期待できるという。
■がんの内部では何が起こっているのか?
がん組織の内部では血管が新しく盛んにつくられている。この血管を腫瘍血管という。
腫瘍血管は、構造が未熟なために、抗がん剤が途中で漏れてしまい、がん全体に十分に行き渡らない。これは免疫細胞についても同様だ。
また、がんの内部は、コラーゲンが過剰につくられるために、線維化し、固くなっている。そのため、免疫細胞が血管から入っていきにくい。
このようながんの異常な内部環境を正常化できれば、抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤などを使った免疫療法の効果を向上させ、副作用も軽減することが期待できる。
しかしこれまで、がんの異常な内部環境の形成にBiglycanが関わっていることは解っていたが、実際に生体内でBiglycanを阻害した場合に、どのような効果が生じるのかについては、よく解っていなかった。
■Biglycanをつくれなくしたマウスに乳がん移植し比較
そこで研究グループは、Biglycanをつくる遺伝子を破壊して、Biglycanをつくれなくしたマウスと通常のマウスに、乳がんを移植して、比較した。
すると、Biglycanをつくれなくしたマウスでは、通常のマウスに比べて腫瘍血管が正常化され、がん組織の線維化も抑制、抗がん剤(パクリタキセル)の効果が向上し、免疫細胞の浸潤も増加していることが確認された。
さらに肺への転移も抑制されていることが解ったという。
研究グループでは、Biglycanを阻害することで、がんの内部環境が正常化され抗がん剤や免疫療法の効果の向上が期待できることが解ったことで、Biglycanを標的とする新しい阻害剤の開発や、その効果的な投与方法の研究の進展につながるのではないかと期待している。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る)