新型コロナウイルスが引き起こす、社会のヒステリー! 薬害事件を忘れたか?

2021年4月30日 16:32

 日本では新薬が治療現場で使用されるまでに行われる手続きが、厳格に定められている。過去に発生したサリドマイド、スモン、薬害エイズ、予防接種に起因する接種禍事件、等々の悲惨な経験をもとにして、治験によって国から承認を得なければ新薬を患者に使用することは出来ないルールだ。

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 基礎研究で効果が認められた新薬は、動物による非臨床試験で検証された後、協力者を対象にした臨床試験を行う。その後、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査を経て、厚労省の審議会が承認の可否を決定する。結果として、新薬が医療現場で使用されるまでには、年単位の時間が必要となっていた。

 新型コロナウイルスに関しても、一連の流れは変わらない。ワクチンや治療薬に関して海外の新薬や既存薬の使用が進んでいるのは、大勢の患者が発生しているという社会背景がある。患者が多ければ研究対象も豊富なので、規定に見合った臨床試験データを早期に整備することが出来る。

 日本における新型コロナウイルスの患者数は、欧米諸国が驚愕するほどに少ないから、充分な臨床試験データを積み上げるまでの経過期間が長くなるのは当然だ。海外で治療薬として認められていても、国家の主体的な関わりを重んじ、薬物反応の民族的な差異を想定して、独自に国内での治験を実施しているので時間がかかる。

 現行で許される特例を駆使して最短を目指しても、ファイザーのワクチン接種が可能になったのが2月であり、アストラゼネカやモデルナのワクチン接種が、5月から開始される見通しにあるのはこのためだ。薬害事件の再発を防止するために設けられたハードルを、越える作業が欠かせないからに他ならない。

 世間の受けを狙うマスコミは、ワクチン接種が進んでいる国と比較して、日本のワクチン接種が如何に遅れているかと強調し、さも失態のように煽りまくっているが、国の対応に間違いはないと言える。

 日本のように患者も死者も少ない国が、手回し良くワクチンを買い占めて、接種件数の1番乗りを決めていたら、金の力でワクチンを買い占めたとして、世界中の怨嗟の声が集中していたかも知れない。

 懸念されるのは、ヒステリー状態の様なマスコミの論調に、流されるかのような動きを政府が見せ始めたことだ。緊急性が認められた場合には、海外で使用した実績があることを前提に、国内での治験が行われていなくとも、新薬の使用を(一時的に)認める制度の検討に入ったことが、29日に伝えられた。

 薬害事故が発生すると国の杜撰な審査体制が原因だと追及していたマスコミが、場面転換した途端に新薬の供給が遅いのは国の責任だと煽るのは、支離滅裂で見苦しい。少なくとも、新薬開発に於ける日本の状況を丁寧に分析して、必要なことは国民に周知する姿勢がなければ、報道姿勢そのものに疑問符が付けられても止むを得まい。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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