個人の資産運用、ハイリスクの仕組み債には要注意
2021年4月19日 07:39
2021年3月末、米投資会社・アルケゴス・キャピタル・マネジメントの株式関連取引による巨額損失が発覚した。これにより野村ホールディングスやゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、ドイツ銀行にクレディ・スイス銀行など、金融大手が軒並み含み損を発表し、世界の金融市場にリーマンショックの再来を予感させた。その損失は、実に60億ドルを超えるとの見込みだ。
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アルケゴス社は、先の金融機関などから資金調達し、極めてハイリスクなデリバティブ(金融派生商品)取引を行なっていたと言う。アメリカや中国の大手メディアやIT関連の株式による資産運用が悪化したことから、所有株の大量売却に追い込まれ、巨額の損失を出した。
この事件を聞いて、ふとドイツ銀行のCDS(デリバティブ商品)の騒動を思い出す。CDSとは、倒産リスクをカバーするために加入する保険商品だ。ドイツ銀行は中国企業を中心にCDSサービスを展開しており、2019年末には総額37兆ユーロ(4,400兆円)のCDSを抱え、倒産の危機がささやかれてきた。
ちなみにリーマン・ブラザーズの抱え込んだ負債が約30兆円。ドイツ銀行はこれを超える負債リスクをはらんでいると言う。この騒動はまだ表面化していないが、コロナ渦の長期化によって、今後ドミノ倒し式に被害が拡大する懸念がある。
さて、デリバティブは先物取引の代名詞で、何かと胡散臭い金融商品である。巨額資金を投じた『丁半ばくち』にも似て、機関投資筋や大資本の投資家が夢中になっている極めてハイリスク・ハイリターンの金融商品である。
そして、ここ数年間は個人資産を狙ったデリバティブ商品が市場をにぎわせている。その筆頭が『仕組み債』だ。この頃では、NISA専用口座開設ページにも勧誘バナーが貼り付けてあり、銀行も仕組み債の普及に尽力している現状だ。さすがに銀行が一般大衆に提供するサービスではないだろうと、この金融モラル低下に不安がよぎる思いだ。
もちろんデリバティブ全てがリスキーだと主張するつもりはない。だが、極めてギャンブル性の高い投資対象であることを理解していただきたい。仕組み債においては、千万円単位で投資できる高利回り債ということで、老後資金を増やそうと退職金や保険金をつぎ込むケースが目立っている。その結果、大金を失うトラブルが続発しており、弁護士会などからも警告が発せられている。
ここでは仕組み債についての詳細説明を割愛するが、巨額損失トラブルが発生する背景に、『ロスカットの徹底した安全な金融商品』と信じ込ませる巧みなトラップが仕掛けられていることがある。例えば、利回り8%をうたう一方、株価などが設定基準を下回るとロスカット(ノックイン)を発動し、満期を待たずに元本割れの損失を確定してしまう。その後相場が回復しても、利益が補填されるといったサービスがない。
なお、ロスカット率は基準値の30%割れあたりに設定している商品が多い。ロスカットされてしまうと、有無を言わさず投資資金の30%が失われてしまうことになる。コツコツ利回りを積み立てても、一度のロスカットでそれ以上を失うリスクが問題なのだ。また、仕組み債の発行主体が海外の政府系金融機関・国際機関である点も要注意だろう。世界的に信用度の高い金融機関の提供商品ということで、投資家が簡単に信じてしまう傾向がある。
現在はマーケットが軒並み右肩上がりの状態で、数パーセントの利回り配当を受ける機会が多いだろう。ただし、コロナ渦では相場の上下動が非常に激しいため、一瞬でノックインとなって損切されるリスクに要注意だ。
というよりも、仕組み債を資産運用のポートフォリオに組み込むのは考えものだ。たとえハイリスク・ハイリターンの投資枠を用意している投資家でも、慎重に選択してほしいのが仕組み債の現状ではないだろうか。(記事:TO・記事一覧を見る)