【映画で学ぶ英語】『ノマドランド』:自由を愛するアメリカ人と慣用句down the roadの意味
2021年4月1日 07:55
3月26日に公開された映画『ノマドランド』は、キャンピングカーで各地を転々としながら生活する現代のノマド(流浪の民)を描いた作品だ。
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2020年ベネチア国際映画祭の金獅子賞を皮切りに世界の映画賞を総なめにして、アカデミー賞でも作品賞を含む6部門にノミネートされている。
今回はこの映画『ノマドランド』から、down the roadという慣用句の用法を学習しつつ、自由を愛するアメリカ人の心情に触れてみたい。
■映画『ノマドランド』とは
2011年、リーマンショックの建設不況による需要減を受けて、石膏ボードなどを製造するUSジプサムはネバダ州エンパイアにあった工場と社宅を閉鎖。夫が他界した後も同地で働いて暮らしていたファーン(フランシス・マクドーマンド)は、仕事と家を同時に失うことになった。
自由と独立を維持したい彼女は、キャンピングカーに改造したバンでノマド生活を始めることにする。映画『ノマドランド』は、このファーンという架空の人物が各地を転々としながら働き、他のノマドたちと交流する姿を描き出す。本物のノマドたちが多数出演しており、ドキュメンタリーとロードムービーが混ざったような独特の作風となっている。
本作のもとになったのは、アメリカのジャーナリスト、ジェシカ・ブルーダーが2017年に発表したノンフィクション。『ノマド:漂流する高齢労働者たち』のタイトルで春秋社から邦訳が出ているが、ノマドは高齢者だけに限らない。原作や映画では、ノマドという生き方を選択した老若男女さまざまな人たちの実像を垣間見ることができる。
■今回の表現
【down the road】 いつか将来/この道の先に
今回の例文は、車で生活するための知恵を集めたサイトの運営者であるボブ・ウェルズが、映画の結末近くで、その信条を語る場面のセリフだ。ちなみにボブは毎年1月、2週間にわたってアメリカ全土からノマドたちがアリゾナ州に集まるイベントの主催者でもある。
Bob: I've met hundreds of people out here and they don't ever say a final goodbye. I always just say, I'll see you down the road.
ボブ:ここで何百人もの人たちと出会ったけれど、最後の別れの言葉を交わす人なんて誰もいないよ。僕は、「いつかどこかでまた会おう」とだけ言うことにしているのだ。
■表現解説
今回の例文では、down the roadという慣用句が、「この道を行った先のところに」という字面どおりの意味ばかりではないことを理解することが重要だ。
この慣用句は比喩的に、「これから先/将来」という意味で用いられる場合が非常に多いことを覚えておきたい。さらに過去の行為が積み重なった結果を表現するのにも用いられることもある。どのような意味であるかは、前後の文脈から判断するしかないだろう。
今回の例文は、キャンピングカーなどでアメリカ各地を旅しながら生活するノマドの言葉なので、「道の先」と「将来」の両方の含みを持っている。放浪生活でも、いつか必ずその先で道が交わることがある、という希望に満ちた言葉だ。
Down the roadという慣用句のさらに印象的な用例としては、2005年にスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学卒業式で行ったスピーチの1節をあげることができる。
[…]believing the dots will connect down the road, it gives you confidence to follow your heart;
(前略)点と点が、いつかその先でつながると信じていれば、自らの心のおもむくところに自信を持って進むことができるのです。
アメリカ人は建国以来、つねに自由と新しい可能性を求めて未知の領域に進出することを躊躇しない人たちだ。ボブ・ウェルズやスティーブ・ジョブズの言葉は、そういったアメリカ人の国民性を反映したものと言えるだろう。
ジョブズは、大学の必修科目はそっちのけで、芸術的に文字を描くカリグラフィーの講座に通ったことが、後にマックの美麗なフォントの実装につながったと言う。
ノマドたちがキャンピングカーで生活するのも、自由に生きる信念にもとづいた主体的選択の結果であることが、『ノマドランド』を通じて見えてくるのである。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る)