新型コロナ、抗ウイルス薬が効かない理由 発症後2日が勝負 九大等が解明

2021年3月30日 11:40

 新型コロナウイルス感染症の特効薬は未だ存在しない。厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」ではアビガンやベクルリーなどの抗ウイルス薬が新型コロナ治療薬として挙げられているものの、WHOのマニュアルではこれらを「積極的に推奨しない」となっている。理由は「有効である」という証拠が未だ存在しないからだ。厚労省では逆に「効果が無い」という証拠もないために上記の薬の使用を標準的治療法としている。シンガポールでは昨年、WHOが挙げた既存の抗ウイルス薬の早期投与により良好な治療成績をあげた実績がある。未だ抗ウイルス薬の効果ははっきりとしていないが、投薬のタイミングと治療効果に何らかの関係もありそうだ。

 3月23日、九州大学から抗ウイルス薬の投薬のタイミングに関係する研究成果が発表された。九州大学のキム・クァンス特任助教、岩見真吾准教授が米国インディアナ大学の江島啓介助教らと数理解析を用い「新型コロナ治療で抗ウイルス薬の効果が認められ難い理由」を解明した。研究グループはMERSやSARSと新型コロナの臨床試験データを数理解析することで、新型コロナでは他のウイルスに比べ早期にウイルス排出量がピークに達することを明らかにした。

 解析結果によれば、新型コロナでは発症後2日でウイルス排出量がピークに達する。一方、SARSでは7.2日、MERSでは12.2日だ。一般的に細胞から上気道へ排出されるウイルス量がピークを迎える前に抗ウイルス薬の投与を開始することがウイルス排出量を減少させるために重要であることがインフルエンザなどの臨床試験からも知られている。さらに、抗ウイルス薬が強力であったとしてもピーク後に治療を開始した場合、ウイルス排出量を減少させる効果は極めて限定的であることも数理シミュレーションから明らかにした。

 この結果からは、新型コロナ治療では発症後2日間が勝負で、これ以降の投薬開始では薬の効果は薄れてしまうことになる。今回明らかにされた新型コロナの体内感染動態は治療戦略を開発する上で極めて重要な知見であり、既に本研究に基づいた医師主導治験が国内で実施されている。(本研究結果は3月23日に国際学術雑誌「PLOS Biology」に掲載されている)。(編集担当:久保田雄城)

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