インスリン注射剤に混ぜるだけ!? 経口インスリン製剤開発に期待 熊本大の研究
2021年3月24日 16:54
糖尿病の治療に用いられるインスリンは、これまで注射という形で使用されてきた。以前と比べて痛みや使いやすさは大幅に改善されたとはいえ、毎日の自己注射は患者の心理的負担となってきた。熊本大学は19日、インスリンを通常の薬と同じように「口から飲む」ことを可能にする方法を開発したと発表した。近い将来、インスリンは「飲む薬」というのが当たり前になるかもしれない。
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今回の研究は、同大大学院生命科学研究部の伊藤慎悟准教授や大槻純男教授らの研究グループが行なったものであり、2月22日に「Molecular Pharmaceutics」に掲載された。
そもそもインスリンとは、膵臓から分泌される物質である。血液中の糖を、筋肉に取り込ませてエネルギーにとして利用させたり、グリコーゲンや脂肪に変換して貯蓄用のエネルギーにする働きを持っている。そのためインスリンが働くと血液中の糖が減るのである。
だが膵臓の疾患により、インスリンが出なくなってしまった1型糖尿病やの患者にとって、インスリン製剤は自身の血糖値をコントロールするための唯一の薬であり、命綱とも言える重要な役割を果たしている。また肥満や生活習慣により、インスリンの効きが悪くなったり分泌が不十分になることで起こる2型糖尿病の患者の治療にも、使用される場面は多い。
ところで、なぜインスリン製剤は注射なのだろうか。それはインスリンが、アミノ酸という物質が繋がってできた小さいサイズのタンパク質でできていることが理由だ。というのもタンパク質を口から摂取すると、肉や魚のようなタンパク質と同じように、消化されてしまいインスリンとしての機能を失ってしまうからだ。
研究グループはこれまでの研究により、小腸透過環状ペプチドを得ていた。これは大きな分子に結合して小腸から吸収させることが可能なペプチドである。今回は消化されにくいD体アミノ酸で合成した、D体DNPペプチドを用いて実験を行なった。
インスリンを消化されにくくするため亜鉛を加え、さらににD体DNPペプチドを添加してマウスの腸に直接投与したところ、15分後から血糖値の低下が見られた。同じものをマウスに経口投与した場合にも、15分後から血糖値の低下が見られたという。これより、口から入ったインスリンが小腸から吸収され効果を表していることがわかった。
現在注射剤として用いられているインスリンには、もともと亜鉛が添加されているため、このインスリン製剤にD体DNPペプチドを混合してマウスに経口投与したところ、血糖値は低下。そのため現在使用されているインスリン注射剤にこのペプチドを加えるだけで、蛍光インスリン製剤が開発できる可能性があることがわかった。
今回の研究結果により、今後経口インスリン製剤の開発が実現することが期待される。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)