EV化議論に先立ち認識すべき基礎要件
2021年2月26日 16:16
本稿は「トヨタイムズ」の「日本のカーボンニュートラルを考える 自工会・豊田会長が語った事実」から、多くの見解を踏襲し、例示数値を引用している。
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それは、自工会の基本スタンスは正しく、インフラ投資コスト、試算値や想定環境に関する数値は、自工会としての分析数値が「正しい分析による数値」であるからだ。
●「EV推し」に走る前に
中国の技術レベルと部品供給の裾野事情によって、内燃機関から土俵とルールを変更したい試みと、欧州のディーゼルエンジン展開戦略から、VWの排ガス偽装事件に端を発した内燃機関忌避の風潮によるEVシフトによって、非現実的なEV転換戦略を採用するに至った。
冷静に現在の、各国の電源事情やインフラの状況を分析・認識して、EV車に代替可能な分野に導入して行くプロセスに異論は無い。
しかし、自国の電源事情も正しく認識しないまま、短絡的にまた受け狙いの政治家のパフォーマンスで「EV推し」に走るのは慎むべきだ。
●「電動車」=「EV車」では無い
HV、PHV、EV、FCVなど、動力源に電気を使うこれらの車のことを「電動車」と呼ぶにも拘わらず、それが「電動車=EV」と単純化されることが少なからず見られる。
電動車には様々な選択肢があるにも関わらず、「最後は全てがEVになると」誤解されているのだ。
そこで、「電動車」とは「車載電池」で「電動機(モーター)」を回して走る「EV車」だと考える向きが多い。結果として、テスラや日産リーフの様な「電気自動車(EV車)」に切り替えるべきだと、騒ぐことなる。
●次世代車
次世代車といわれるのは、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、クリーンディーゼル車である。
次世代車は2008年には僅か3%でしか無かったものが、10年余を経て2019年度には39%となった。
この39%を主に構成するのが、HV、PHV、EVの「電動車」である。
●日本は「電動車」では優等生
日本の2019年度の「電動化比率」は世界第2位の35%である。
第1位はノルウェーの68%だ。この背景には、ノルウェーの電源構成事情が大きく関係している。
北欧諸国は1992年から、「ノルドプール(Nord Pool)」を開始した。これは、北欧諸国を送電線でつなげてお互いに電力を補い合い、電気を売り買いする国際電力取引市場だ。
ノルドプール加入国の電源構成は水力・火力・風力など様々だが、ノルウェーの水力だけで約50%を占めている。急峻な山々と豊富な降水量で、ノルウェーは電力事情に恵まれている。
その結果、ノルウェーでは68%もの電動化率となっているのだ。
しかし、絶対台数はノルウェーのそれは僅か10万台に対し、日本は150万台と圧倒的に多数を占めている。日本は電動車では優等生なのだ。
●「EV車押し」に対する難題・課題
・その1
今年になって、既に関西電力の供給エリアでは、寒波の影響と在宅勤務の増加等の要因もあり、電気の使用率が供給容量の99%までになった日がある。
これに加えて、国内に保有される6,000万台全数をEVに置き換えたとすれば、夏の電力使用がピークとなる時には、完全な電力不足に陥る。
その解消には発電能力を+10~15%にしなければならず、これは、原発で+10基、火力発電で+20基の規模に相当する。この電源をどの様に確保するのか。
・その2
全てEVにした場合、10年インフラの投資コストは約14~37兆円かかる。
自宅のアンペア増設は1個当たり10~20万円、集合住宅の場合は50~150 万円にもなる。集合住宅の駐車場確保ですら、車を保有しない家庭からは否定的な意見があるのに、EVのための余分な投資が受け入れられるのか。
・その3
急速充電器の場合は平均600万円の費用がかかるため、約14~37兆円のコストがかかるというのが実態だ。これ程の巨額なインフラ投資が、「未成熟なEV車」のために投ずる意味があるのか。
・その4
生産で生じる課題としては、国内の乗用車の年間販売台数に相当する400万台がEVに置き換わるならば、電池の供給能力が今の約30倍以上必要になり、コストとして約2兆円と試算される。
革命的な素材の転換等が無ければ、希少な資源の争奪戦が激化するだろう。
・その5
EV生産の完成検査時には充放電をしなければならず、現在EV1台の蓄電量は家1軒の1週間分の電力にも相当する。単なる完成検査だけに、これだけの電気を無駄に消費する訳だ。
従って、年50万台の工場とすると、1日当たり一般家庭5,000軒分の電気を充放電することになる。結果として、火力発電でCO2を多量に排出し、これだけの電力が単に「完成検査だけのため」に充放電される。こんな無駄が許されるのか。
●結論として
地球温暖化対策としての「CO2排出抑制」に対して異論は無い。
しかし、「自動車」としては未完成な、「解決すべき課題が多いEV車」に関して、こうまでして「EV車へ転換」する必要がどこにあるのか。先に見た様な膨大なコストは、水素社会に向けたインフラ投資に活用すべきであろう。
そして、ハイブリッド技術、燃料電池技術、内燃機関技術で「陸上輸送関連機器」は日本が世界需要の全て引き受ける気概で、正しい展望を描いて進むべきだろう。
日本のカメラが、世界需要の殆どを供給している様に。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る)