光で認知症を改善 光酵素で神経伝達効率の強化に成功 生理学研究所

2021年2月9日 08:22

 光刺激は脳の活動に大きな影響を与える。人間の睡眠リズムは生命時計とも呼ばれるが、光刺激によってメラトニンという伝達物質の代謝を制御し、睡眠の日内変動を生み出す。記憶・学習は神経間のシナプス結合が強化されることによって起こるが、これも光刺激により統制される。認知症等の多くの精神・神経系疾患ではシナプスの消失や退縮が見られることが分かっているが、国立の生理学研究所のチームが強化可能な光応答性酵素の開発に成功した。これにより神経系難病の治療が飛躍的に進歩する可能性が出てきた。

 2月3日、国立の研究機関である自然科学研究機構・生理学研究所の村越秀治准教授らのグループが神経細胞シナプスの情報伝達効率を光で強化することに成功したことを発表した。本研究結果は米国科学雑誌Nature Communications誌(2月2日付)に掲載されている。

 当グループは生きた動物内で脳神経細胞のシナプスの大きさや機能を1つずつ光で強化することが可能な光応答性酵素の開発に成功、これにより、この光応答性酵素を用いて記憶の仕組みを調べることができるだけでなく、弱ったシナプスを回復させるなど記憶障害の治療法の開発が進むと考えられる。

 近年、シナプスの変化が記憶や学習、またこれらに関係した神経疾患と深い関係があることが明らかとなっている。伝達効率の変化は「シナプス長期増強」と呼ばれ、記憶や学習の分子基盤となっていると考えられており、個々のシナプスの状態を非侵襲的に操作することができれば、神経疾患の治療法の開発や記憶・学習メカニズムの解明が進むと考えられる。

 本研究では、非侵襲的にシナプスの状態を操作することを可能にするため、シナプス可塑性に重要であると考えられる「CaMKII」と呼ばれるタンパク質に着目し、光照射の有無によってCaMKIIの活性化を操作可能にするため、CaMKIIに植物のタンパク質の光感受性部位を遺伝子工学的に融合した。数百種類のDNAを作製・テストした結果、青色光や集光した近赤外光の照射によって活性化する遺伝子コード型の光応答性CaMKIIの開発に成功した。

 村越准教授は「本研究で開発した分子デザインは細胞内に存在する様々なタンパク質に応用が可能であるため、将来の光医療開発に繋がる画期的な成果であると考えられます」とコメントしている。(編集担当:久保田雄城)

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